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女園秘書室-第73話-


アルコール臭を消すためだけにお風呂に入った樹里。←けっこう大ボケです><
さてさて場面は女3人での楽しいショッピングへと移ります。ショッピングといっても食材の
買出しですが、楽しいものです。多分、樹里は普段こういった買い物をしないので、新たな
発見があるでしょう。
終わり行く週末が楽しいものになりますように…第73話です。


第73話

樹里は死のうとしていたわけではなかった。
それが分かっただけで、充分だった。
一人のリビングでふと目を覚まし、あまりの酒臭さが嫌になり、匂いを洗い流したかったのだと、
彼女は笑った。
それほど豪快に酒を呑んだことはなく、泥酔状態で風呂に入る怖さは知らなかったのだという。
湯船に浸かって少しも経たないうちに、心臓が早鐘を打つように鼓動し、頭がグルグル回り始めたと
思ったら、記憶をなくしていたようだった。
「本当にごめんなさいね、桃子さん」
樹里は、桃子になだれかかるように寄りかかる。
風呂場で洗い流したはずの酒臭さは、結局まだ拭えていない。
ツンと鼻にアルコール臭が漂ってきた。

お手伝いの亜樹が部屋に入ってきて、今日の献立を発表した。桃子の話を聞いたあと、掃除を
放置し、ずっとメニューを考えていたのだという。
お品書き。それは、どこかの高級料亭で目にするようなメニュー表のように美しいものだった。
金箔があちこちに飛んでいる和紙に、料理の名前が一つ一つ筆で書かれている。
「樹里さん、好き嫌いはなかったですよね?お父様も……」
桃子は、父親が一緒にご飯を食べようと提案したことを、樹里にはまだ話していなかった。
樹里の驚いた顔。
先ほどのリビングでの父親とのやり取りも、どこまで聞いていたのかあやふやだ。
頭を下げて謝ったことすら、聞いていなかったかも知れない。それでは、何のことか理解できない
のも当然だった。
それでも頭のいい樹里のことだ。何かを察したようだった。
目がキラキラと輝いているのは、涙のせいだろうか。もしそうだとしたら、その涙は、嬉しいからか
悲しいからか。途方もなく長い暗闇にいた樹里の涙は、とても重い意味があるような気がした。
そして、その気持ちを推し量ることは、桃子にはできなかった。
「わたしはありませんが…父は知りません」
父は知らない。
その言葉が、また桃子の胸を貫く。
そんなものなのだろうか。
大人になって、生活を別にしているが、桃子は両親の食の好みを知っている。嫌いなものももちろん
知っていて、帰省するのきの手土産に、それらの類は持たないようにしている。
一緒に暮らしているのに知らないのは、寂しいことだ。
何と言ったらいいか分からず、迷っていたときだった。
「一緒に買い物に行きませんか?」
亜樹が唐突に言った。

樹里が運転席に乗り込む。
助手席に桃子。後部座席に、亜樹が座った。
最初に運転席に乗り込んだ亜樹を押しのけて樹里がドライバーになった。
キーを回した瞬間に流れてきた演歌に、三人で笑い出す。
演歌を好きな人もいるかもしれないけれど、一般的に演歌を聴く世代ではない。
亜樹の実際の年齢は分からなかったが、桃子はそれほど自分と変わらないだろうと思っていた。
近所のスーパーを通り越していく。決して小さくないスーパーだ。週末とあって、かなりの人で
賑わっている。特売でもあるのか、通りは人が溢れんばかりだ。
車の脇を、自転車が何台も駆け抜けていく。
「お祭りみたいだね」
信号待ちをしている車の前を、たくさんの人が横切って道路を渡る。
休日だからか、家族連れが多い。

桃子は、小さいころ、両親に連れられてデパートへ来たことを思い出していた。
樹里は、きっと思い出すことが何もないだろう。それは、いくら欲しいと思っても手に入れることが
できない過去。お金を積んでも、偉い人に懇願しても、樹里は楽しかった過去というものを得られ
ないのだ。

でも、これからがあるんだ。
桃子は、ボケッと人の波を眺めている樹里に目を向ける。
父親はまともになりそうだ。亜樹さんもよくしてくれる。
あたしや理子さんもついてる。
あとは、阿東と有砂をやっつけるだけ。そうしたら、本当に楽しい日々がやってくるんだ。
「戦うぞ」
桃子が小さくつぶやくと、樹里はその意味を知ってか知らずか、
「うん」
とうなづいたのだった。

-第74話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/10/17(水) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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