笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!

女園秘書室-第69話-


登場はしていましたが、名もなきキャラだった女性に台詞登場!!
そして、樹里の家族を語っちゃいます^^
あまり登場人物が多いのはよくないと分かっていながら…。誰もはずせない〜><
桃子がまた何かを背負う第69話!!!


第69話

桃子は、樹里の頭をそっと持ち上げて、自分の足を抜いた。
脂肪がついている太ももは、さぞ寝心地がよかっただろう。ソファの上に頭を置かれた樹里は、
一、二度「ウン、ウン」と唸って、また小さな寝息を立て始めた。
静かにドアを開けて、二階へ上る。
お手伝いさんは、長い廊下を半分ほどきたところで、掃除機をかけていた。後ろ向きの彼女に、
「あの」
かなり大きい声で話しかける。掃除機には勝てるはずがない。自宅用とは思えないような大きな
掃除機が、ガーガーと音を立てて、左右に動き回る。
後ろから体に触れて呼び止めるのは、好きではない。
むかし、それをして、急に触られた友人が驚きのあまり、桃子の顔面を殴ったことがあったのだ。
それ以来、後ろから誰かに用事があるときは、必ず呼びかけることにしている。
「すいません」
なお話しかけても、お手伝いの女性は振り返らない。
桃子は、脇を通り抜けて、彼女の前に出た。
女性は、ビクッと体を震わせ、掃除機で身構えたが、それは一瞬のことだった。

掃除機の電源をオフにすると、とたんに静かになり、耳がざわざわした。
急に無音の世界になると、桃子は最近耳に違和感を覚える。ざわめきが懐かしいのか、それとも
年をとって急な音の変化に対応できないのだろうか。
誰もいなければ、耳に指を入れて掻きたいところだが、そうもいかない。特にこの家では、少しでも
下品な行動は厳禁という空気が漂っている。
桃子は、上から耳を軽く押さえながら、お手伝いの女性にニカッと笑いかけた。
長い髪を、黒いゴムで後ろでひとつに束ねている姿は、本当は若いだろうに年齢より老けて見えた。
きちんとしている様子は伺えて、これだけ動いて働いているというのに、全身どこにも乱れがない。
薄化粧で、くっきりとしない目鼻立ちのため、印象は薄い。
家政婦という仕事が、目立たない存在であることを必要とするならば、彼女には適しているように
見えた。
「どうかしましたか?」
口元に笑みを浮かべる。
桃子は、一気にまくしたてる。
「樹里さんのおやじさんがさ、今日夕飯をみんなで食べるんだって。あなたに言っておいてくれって
言うから」
桃子は、我慢ができずにまだ痒い耳の中に、指を突っ込む。
女性が、掃除機の柄の部分を手放した。
ガッターン。
床に掃除機が転がると、重めの音を立てた。それは、静かで広い邸宅の中に響き渡っていった。
「ばっかだなぁ。樹里さんが寝てるのに、そんなに大きい音立てるなよ」
もう転がしておいても、音は立てないというのに、桃子はそれを拾い上げる。
そして、女性の顔を見ると、彼女は目にうっすらと涙をためていた。

なんだって、最近こんなに周りに泣くやつが多発するんだ。
あたしは、世話焼き人じゃないぞ。
「あのさぁ、あんた」
桃子が話しかけると、
「あんたじゃありません。わたしには、亜樹という名前がちゃんとあります」
と主張した。
「んじゃ、亜樹さん。どうして、泣いているのさ」
しまいにはしゃがみこんでしまった亜樹に、桃子も身をかがめて話しかける。
すると、それに呼応するかのように、泣き声がいっそう激しくなった。
桃子は、亜樹が掃除したばかりの床にお尻をついて座り込んだ。一つついた大きなため息が、
亜樹の前髪をふんわりと持ち上げる。
「すみません」
鼻をぐずぐずさせながら、亜樹が話し始める。
「わたしがこの家に来たときは、すでにご主人様と樹里さんの関係は冷え切っていました」
樹里たちが夫婦であるかのような言い方に、話の内容は決して笑えるものではなかったのに、
桃子はおかしくなった。
「雇い主であるご主人様はほとんど帰宅されず、樹里さんも毎晩遅いので、わたしは時々、ここを
自分の家だと勘違いするほどでした。だって、日中はこの家に一人なんですもの」
亜樹は、涙を指ですくいながら、「ふふふ」と笑った。
「時々会う樹里さんと話すといっても、挨拶以外にはほとんど話したことはなくて。いえ、いい
んですよ。わたしはこの家の家族ではなく、使用人ですから。余計な会話など必要ないと思って
いますから。ただ、何か樹里さんはいつも悲しそうに見えたもので、相談に乗れたらと思って
いました」
亜樹もべったりとお尻を床につけ、子供のように膝を抱えて話を続けた。

-第70話へ続く-

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/10/09(火) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
  1. | コメント:2