理子との出会い。それは、樹里にどう影響してくるのでしょう。
二人は似ているようで、正反対で…。
樹里が次第にみんなと打ち解けていく第60話。
(説明文、みじかっ^^;)
第60話「いや、まいったよ。桃子の友達が、こんな上品なお嬢さんとはね」
理子は、好きな焼酎を自分の好みの濃さに割って、ぐいぐいと飲み干していく。
酒を呑んでいても、呑んでいなくても、理子の喋りや、様々なペースに変化はない。
「桃子が白旗の秘書ってところから、間違っている気もするけど」
グラスに氷を一つ落とすと、爽快な音が部屋中に響いた。
涼しい音だった。桃子は、理子に何も言い返すことなく、小鉢に盛られた枝豆を
つまんでいる。
大人しい桃子など、桃子ではなかった。自分自身でもわかっているけれど、たまには
黙って大人しくしているのも、有りだ。白旗で秘書になったことで、小さな部分で
変化は起こっていた。
「樹里ちゃん」
理子は、続いて樹里に目を向ける。
「足、痛くするよ」
どうやら、正座のことを言っているようだ。
上品な格好ならともかく、ダラダラするのに最適な格好で正座をしている樹里を見て、
理子は目に涙を溜めている。バシバシと足を叩く様は、昨晩樹里が、桃子の足を
叩いた行為に似ていた。
おかしくて仕方がないようだ。
樹里が恥ずかしそうに俯く。
また新たな一面を見たな。桃子は、折り曲げた膝の上に頭を乗せて、樹里のほうを見た。
まるで眠りについてしまうかのような格好に、
「桃子、樹里ちゃんを見習いな」
と、理子から檄が飛ぶ。
見習う。そうだな。
樹里には見習うべき点がたくさんある。
視界が急に霞んで、一瞬樹里の姿が見えなくなった。なぜ涙が出てくるのか分か
らなかった。
いつも行儀良く、品行方正な樹里。それは、そうしていれば救われると思っている
かのように感じられた。いい子にしていれば、褒められて、何かを買い与えてもら
えると思っている子供のように。
それを誰かがきちんと褒めたことがあるのだろうか。それとも、褒めようとした
ときには、樹里は心を閉ざし、外から見れば冷血とも言えるべき人間になってし
まっていたのだろうか。
寂しいやつだな。
それが桃子の涙の意味だった。
キャラじゃない。
理子は、桃子が涙を流した理由を聞くと、笑い飛ばした。
樹里は、自分の生い立ちを赤裸々に明かすことになり、ますます俯いてしまった。
自分の弱かった部分を、もうこの何年もの間、見せたことはなかった。
ただ、桃子が理子に対して語った自分のこれまでの人生は、すべてではない。まだ
話すことのできない苦い思い出はたくさんあった。それは、誰にも知られたくない
と思っていた。
理子という初めて会った人だからこそ、桃子の話を遮ることなく、桃子の知る自分の
過去のすべてを語らせることができたのだろう。
「諦めな」
理子は、笑うのを止めて、樹里に話しかける。
「人生、すべてのものを手に入れることはできない。大切なものがどれなのかを
見極めて、それだけは失わないようにしなよ。それ以外は諦めろ。父親のことも、
母親のことも忘れちまいな」
理子の目は真剣だった。
「あたしなんか、とっくに諦めた。楽だよ、あんた。必要ないものは切り捨てて
いくの。大切なものがより愛しくなるよ。あんたに必要なのは……」
理子は、グラスに残った焼酎を煽った。
「桃子やあたしみたいに、まっすぐ物事を言える人間だな」
理子の不器用なウィンクは、両目を瞑っていて、顔に皺を増やしただけだった。
それを見て、桃子が笑う。続けて樹里も笑った。
「おい、人が真剣に話してるだろ。笑うな」
理子が、中腰になり、右腕を振り上げて殴りかかろうとする格好をした。
壁に背中がくっつくくらい避ける桃子と樹里。
「理子さんにはかないませんね」
樹里が座ったままテーブルに近づき、理子を真似てあぐらをかいてみせた。
-第61話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/09/21(金) 12:00:00|
笑@会社
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