新しい出会いは、年齢を重ねるごとに、楽しいというより気恥ずかしく、馴染め
ないものだったりします。人生、出会う人は限られていて、その人と出会うこと
には、何か意味があるものです。
樹里と理子には、どんな関係ができていくのでしょう。
二人が出会う第59話!!
第59話ガサ、ガサ、ズー。
樹里がサンダルを上手く操れず、すり足で歩く。
それでも本人は、楽だといって、楽しそうな顔をしていた。
空気が入ったように膨れたパンツも、子供の好きなキャラクターが描かれた安っぽい
ティーシャツも、彼女にとっては新鮮だったようだ。
嫌がる素振りは一つも見せず、ただ、慣れないせいか、何度もティーシャツを引っ
張ってはキャラクターを眺めたり、ショーウィンドウに薄く写った自分の姿を、
立ち止まって眺めていた。
「桃子さん、ありがとう」
樹里が桃子の腕を取り、握手を求めてくる。
嫌な気はしない。それどころか、樹里に感謝されたことが嬉しくてたまらなかった。
待ち合わせの居酒屋。
ここも、よく桃子が通った店だった。
警備員を辞めたときの送別会もこの居酒屋で執り行われた。
自動ドアではなく、いまどき扉を手で開ける。中に入ると、中央に一本通路があり、
両側に奥行き広く座敷が並んでいる。
正面奥にはカウンターがあって、その向こう側は厨房だ。
料理人の料理中の粋な姿が見れるということもあり人気の店だが、ガヤガヤとう
るさく、ゴミゴミとしているので女性客は少ない。例え女性がいたとしても、樹里の
ような清楚な女性は一人も見当たらず、桃子のような女性でも数人という店だった。
だから、ここでも桃子は、オーナーや店員と仲が良かった。
店に入ったとたん、ここでも威勢のいい掛け声が飛び交うのを耳にした。思わぬ
騒音に、樹里はそっと耳に手を当てた。
「うるさい」という彼女なりの意思表示のようだ。
樹里が、口をパクパクさせていたが、近くにいても桃子には何を言っているのか
分からなかった。
店の奥、カウンター席の裏側には、秘密の個室がある。桃子は、オーナーとだいぶ
親しくなってからこの部屋の存在を知った。そこは、予約のときに開いていれば、
常連だけが使用することが許される
何の変哲もない、普通の部屋。特別なサービスがなされるわけでもない。ただ、
のんびりと過ごせるのは確かだ。
桃子はすれ違う店員に軽く挨拶をしながら、裏部屋へと続く道を、樹里を従えて
歩いていく。
部屋は、襖で閉ざされていた。薄っぺらいサンダルが揃えて置かれている。理子
がもう来ているのだろう。
「失礼します」
桃子が襖を開けて入ると、樹里は、桃子の脱いだ靴を丁寧に並べて、自分は上品に
正座をするような格好で部屋にあがった。
「桃子、久しぶりだと思ったら、あたしを待たせて、いい度胸だな。しかも、呼び
出したのは、桃子、あんただよ」
理子は、健康的以上に日に焼けた肌を肩まで露出させて、まるで祭りの神輿をか
ついできたかのように威勢がいい。
大きな桃子の影になった樹里に目を向け、笑顔を向けた。
「あんたが樹里ちゃんか」
「はい。福井樹里と申します」
樹里は、なぜ理子が自分の名前を知っているのか疑問を持つことなく、軽く会釈
をした。
「似合わない服着てるなぁ。アハハ。どうせ、桃子に着させられたんだろう」
理子が立ち上がる。桃子や樹里が買ってきたような、スポーツ用のトレーニング
パンツがシャカシャカと音を立てる。
「安藤理子です」
理子が差し出した真っ黒に日焼けした手を、樹里は恐る恐る握った。
ギュッと力を入れて握る理子。
「ぎゃぁ」
と、小さく悲鳴を上げた樹里。
その姿をほほえましく見つめる桃子。
威勢よく襖が開いて、板前風の店員が注文用用紙片手に乱暴に乗り込んでくる。
慌しくも、心が明るくなった瞬間が、このときは確かにあった。
-第60話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/09/19(水) 12:00:00|
笑@会社
| トラックバック:0
-
| コメント:2