いろいろなことがあって、感情錯乱気味の桃子です。
これまでの人生で感じたことのない、不安や絶望、苛立ちが一気に
押し寄せてきていて、彼女にとって試練の時期に突入でしょうか。
きっと長くは続かない。人生はイーブン。
でも、悪いことがあったとき、人はどうしても悪いことのほうが
多く感じてしまうもの。
新しい厄介ごとも抱えそうな38話です!!
第38話沢渡渚。
彼女が秘書室で口を開くことは滅多にない。
というより、秘書室は私語どころか、仕事の話でさえしてはいけないよ
うな雰囲気に包まれている。誰にでも自由に話しかけることができるのは、
阿東と有砂と樹里の三人だけのように感じる。
だからと言って、他の人が、その三人にならむやみに話しかけることが
できるかといえば、そうではない。
そして、自由に発言権を持つ三人も、決して楽しい話をするわけではない。
本来の会社のあるべき姿って、こんなものなのか?
働いた分だけお金をもらう。
それだけが満足していればいいのか?
別に和気藹々と楽しくしたいわけじゃない。
だけど、こんなにも異様な雰囲気じゃ、続けられないぜ。
桃子は、キッとした表情で渚を睨んだ。
おどおどするのはやめだ。
榛原未来をかばったつもりはない。何もかも押さえつけられて、知らず
のうちに溜まりこんでいたストレスがここに来て一気に噴出していた。
一人きりの部屋にこもっていても、体の疲れを癒すことはできても、心の
疲れは取れていなかったのだ。
いつか爆発させなければ、心が押しつぶされて窒息してしまう。
桃子に睨まれた渚は、一瞬ひるんだが、何かを思いついたかのように目
を輝かせ、パソコンに向かった。
ふん。誰かに告げ口かい?すればいいさ。
とにかくあたしは、我慢しない。
嫌なら辞めさせればいいさ。
会議の資料をまとめにかかる。
なるほど、桃子に分かるように、有砂は、会議資料の下書きを作ってく
れていた。
それをワードに打ち込めばいいだけになっていたのだ。
優しいのか、冷たいのか。協力的なのか、非協力的なのか。本当なのか、
嘘なのか。
何が現実か、桃子には分からない。
だいたい、あたしは何のために、秘書室に来たんだったか?
社長に向かってくる敵を力で追い払うためじゃなかったのかい?
それが、どうだ?これまで、いや、まだ一ヶ月も経ってないとはいえ、
まったく襲われる気配がないじゃないか。
それだから、少しでも自慢できる腕力、筋力、走力をどこにも発揮でき
ないままじゃないか。
それはまだしも、あたしが一番苦手とすることばかり押し付けてきやがる。
パソコン、英語、厳しそうな女たち。
社長が襲われないのなら、襲われるように仕向ける?
誰にやらせるんだ?警備員の仲間かい?
バカバカしい。
やめちまえ。こんな職場くそくらえだ。
桃子は錯乱していた。
頑張ろうと思ったとたんに、やる気をなくす。
また、そこから気持ちがグンと復活して、英語でも習ってみようかと思っ
たりする。
これまでの人生、これほど浮き沈みが激しいことはなかった。
一度やると決めたことは、全力を尽くしてやってきたし、やらないこと
は始めから手を出さないと決めていた。
中途半端な人間や物事が大嫌いだからだった。
その大嫌いな人間に、いま自分がなろうとしている。
なんだ、この感覚は。
もはや自分の意思ではコントロールできない感情の変化が、常に心の奥で
渦巻いている。
気でも違ったか?
頭をぐしゃぐしゃと掻きむしり、首を数回左右に振る。
突然の奇行に、渚が目を丸くして、パソコンの間から桃子を見つめていた。
桃子は、未来が淹れてくれた珈琲を一気に飲み干す。
そして、渚と目が合うと、子供がやるかのように思い切り舌を出してやった。
渚が、より一層驚いているのを、笑ってやった。
少しはすっきりした気分になる。
桃子は、逆立った髪を丁寧に撫でつけ、パソコンに向かう。
あまり時間はない。
ワードを開いて、会議資料の打ち込みにかかろうとしたときだった。
メールが届いたと言う知らせ。
もう何通も未開封になっているメールたちの一番新しい位置にあるメールの
名前を、桃子は確認して、ゆっくりドアの方に視線を動かした。
-第39話へ続く-
2007/08/08(水) 12:00:04|
笑@会社
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