笑@会社

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女園秘書室-第36話-



優しそうだと思っていた女も、実はかなりのデキル系。
多分、この社内はどこへ行っても同じ雰囲気の人ばかりでしょう。
桃子、ここでがんばるなら、凹んでいる時間はありません。
自分らしさを貫くか。デキル系に名を連ねるか。
それとも、その両方を目指すのか?
まだまだ落ちる第36話。



第36話

まだ桃子が入社して間もない頃。
秘書室のメンバーは、有砂や樹里といった、得体の知れない冷たい女た
ちばかりで腹立たしいと思っていたとき。初めて会社で聞いた優しい声。
社用車管理部の…。
「大井です」
その隙のない女は、まぶしいほどの笑顔を向けた。
ただ、その笑顔は、有砂や樹里と同じように、作られた笑顔だった。
危うく声に騙されるところだった。
桃子は、彼女の様子を伺う。
「大井奈々です」
車を路上駐車させたまま、車から数歩離れた歩道で、二人は向かい合っていた。
奈々が名刺を差し出してきた。

何もこんなところで。
相手は同じ会社の人間だぞ。
桃子は、心の中では悪態をつきながらも、にこやかに名刺を両手で受け取った。
そして、バッグの中から名刺入れを取り出そうとした瞬間、奈々は、
「さ、行きましょう」
と、身を翻したのだ。
あたしの名刺は受け取らないっていうのかい?
いらないってことかい?
応対の声だけ聞いていたときは、優しそうだと思っていた。
声だけでは分からないものだ。
きっと、有砂や樹里も、誰かにとっては優しい人なのだろう。
あたしの感覚がおかしいのかい?
助手席に乗り込もうとした桃子は、座席の上に小さなバッグが置いてあ
るのに気づいた。
奈々はそれをどかそうとしない。
ドアを閉めて、後部座席に乗り込む。
車はゆっくりと右斜線に合流して、少しずつスピードをあげ、会社へ向かって
走り出した。

車中は、静かだった。
何でもいいから音があればいいのに、会話もなく車は進んでいく。
「慣れましたか?」
奈々に聞かれたとき、桃子は通り過ぎていく景色を眺めていた。
どこまで行ってもビジネス街なのか、スーツ姿の人たちが行きかっている。
そんな中に、時々工事現場などがあったりして、作業服の人たちが仕事
をしているのを見ると、ほっとした。
桃子は、ため息を一つついた。
それが答えだと思ったのか、奈々はもう何も聞いてこなかった。
車は会社の入り口で止まり、桃子はそこで降りた。
奈々は、地下の駐車場に車を止めに行くのだと言った。
乗せてもらった感のある桃子は、一緒に行こうかと言おうとしてやめた。

こういう奴らは、手伝われることを嫌う。
自分の仕事は自分がやる。
その代わり、他人の仕事も手伝ったりはしない。
協力し合うとか、一緒に頑張ろうという気持ちはない。
それは、秘書室の雰囲気を見ていてよく分かることだった。
桃子は、奈々に対して、秘書室の輩たちと同じ匂いを感じていた。

正面の会社の入り口には、むかしの職場の仲間が立っている。
ちらと横目で桃子を確認して、彼は、はにかんで小さくお辞儀をした。
桃子の壊れかけていた心は、旧知の男の笑みによって、完全に崩れるの
を免れた。
エレベーターへ歩いていく。
あの日、あの男が包丁を持ってこの場所を走っていった。
ちょうど社長が降りてきて、あたしは社長を守った。
そして、こうして秘書になった。
これで良かったのか?何度も繰り返し、自分に問いかける。
良くなかったとしても、もうあの頃に戻ることはできない。

あたしは、バカだ。
戻れない過去に、戻れることができたとしたら、どうなんだい?
「やるぞ」
小さくつぶやいて、三基あるうちの一番奥のちょうど降りてきたエレベーターに
乗り込もうとして目を見開いた。
阿東と樹里が二人で降りてきたのだった。

-第37話へ続く-


    2007/08/04(土) 08:30:13| 笑@会社 | トラックバック:0
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