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女園秘書室-第32話-



桃子、崩壊の危機。
過去へ救いを求め…求めてみたけれど。
あぁ、誰か桃子を助けてください。
強がりの中に、見せる寂しさ。
ほんのちょっぴり、女を見せた?32話です。



第32話

一人の部屋が居心地いいと思ったのは、秘書室に勤務し始めてからだった。
もともと、一人でいるのは好きではなかった。勇ましい性格に見えても、
寂しがり屋で、孤独が嫌いだった。それでいて、誰かとベッタリとする
のも好きではなく、随分気難しい性格に、嫌気が差していたときもあった。
大勢で集まって、とりとめもないことで騒ぐ。そんなカラッとした雰囲
気が好きだった。
自分には、悩みもなく、もしあったとしても、それは自分で解決できる。
だから、他人に深い話をしたことはない。
そして、桃子もまた人の深い話など聞いたことがなかった。
それが、寂しいことだと最近思い始めていた。
すべては、いまの会社生活が始まってからのことだった。

あまり鳴ることのない携帯電話をみつめた。
ある名前を画面に出し、桃子は手を止めた。
川越智弘。
もう別れて数年経つ、桃子の元彼だ。桃子は、もう何年も会っていない
智弘に、初めて甘えたい気持ちになっていた。
思い切って、通話のボタンを押した。
五回ほど発信音が鳴り、電話が通話中に切り替わる。桃子は慌てて、携帯
電話を耳に近づけた。
電話の向こうからは、何も音が聞こえてこなかった。
微かな息遣いだけ、妙に大きく聞こえてくる。まるで、誰かに見付から
ないように、そっと息を潜めているかのようだった。
「えっと、あの」
桃子まで息苦しい感覚に捉われた。
唾を飲み込んだ音さえ、相手に聞こえていきそうで、桃子は携帯電話を
遠ざける。
「…子?」
辛うじて、「こ」だけ聞こえてきた。そのたったの一言でも、桃子は相
手が間違いなく、智弘だと理解していた。
とりあえず、智弘が携帯電話の番号を変えていないことに、安心した。

「どうした?」
その声と同時に、何かがきしむ音が聞こえてくる。
「何年か振りなのに、どうした?って。昨日会ったかのような台詞だ」
からかうように言ったが、正直なところ、桃子は何年ぶりになっても、
普通に話せる関係でいられたのかと思うと、嬉しかった。
「うーん」
小さく呻く声が聞こえてきた。
「あ、ごめん」
桃子は、反射的に謝っていた。
聞こえてきたうめき声が、女のものと分かったからだった。

彼女いるんだ。いや、この年齢になれば、彼女じゃなくて奥さんかもし
れないな。
あたしは、よりを戻したくて電話したわけじゃない。
ただ、何となく誰かに話を聞いて欲しくて、それがたまたま智弘だった
だけだ。
そう、話を聞いてくれるだけでいい。
でも。

かけなければ良かった。
ガタガタと音がして、智弘の小さかった声が、少しだけ大きく聞こえた。
きっとベッドから抜け出して、違う部屋にでも移ったのだろう。
「どうした?」
智弘は、もう一度はっきりと言った。
たまたまボタンを押してしまった。
「あ」行の名前ならともかく、「智弘」と入力されているのをたまたま
押すことはまずない。苦しい言い訳だった。

別にいいさ。
悩み?あたしに悩みがあるように見えるかい?
例えあったとしても、話すわけがないよ。
必死に自分に言い聞かせてみた。
違う。あたしだって、本当は頼ってみたいんだ。誰かに話を聞いて欲し
いんだ。
ただ馬鹿な話をして盛り上がるだけじゃなくて、本当は。
いつからこんな風に弱くなっちまったんだい?
桃子は、自分に問いかけていた。
あぁ、何もかも、あの秘書室が原因なんだ。
あたしが、あたしらしくなくなった場所。

「大丈夫か?」
むかしから心配性だった智弘の優しい言葉に、涙ぐみながらも、桃子は
言っていた。
「なんのことだ?あたしが、大丈夫じゃなかったことがあったか?」

-第33話へ続く-


    2007/07/27(金) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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