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女園秘書室-第31話-



桃子、どこへ行っても安らげる場所はありません。
せっかく食べ物&飲み物を手に入れたのに、目の前には有砂。
また何か変なことが起こらなければいいのですが…。
とことん仮面を被る桃子が、次第に何かに巻き込まれていく31話です☆



第31話

「花木さん、こういうとこ初めて?わたし、近くで見ていて、ハラハラ
しちゃったわ」
有砂は、楽しそうに話す。
「メニューを見たとたん、目を真ん丸くさせているんですもの」
ハハ。桃子は力なく笑って、うつむいた。
そんな桃子に構わずに、有砂は自分の席からバッグと飲み物を持ってく
ると、向かいの席に座る。
あぁ、疲れる。多分、とても。
桃子は、有砂に微笑みかけながらも、そんなことを考えていた。
警備員時代の仲間とは、仕事が終わってからもよく飲みに出かけていた。
それは、仕事以外の場所で一緒にいても決して疲れない、楽しい仲間だっ
たからだ。
有砂は、というより、秘書室のメンバー相手では疲れると思った。
警備員時代の仲間とは、疎遠になったわけではない。
桃子は、以前のように馬鹿を言ったり、飲みに行きたいと願っていた。
ただ、忙しさのあまり連絡を取る回数も減り、慣れない仕事をこなして
いるだろう桃子のことを、周囲も気遣っているのか、どこかへ誘われる
こともなかった。
今の桃子は、自分一人の時間をのんびりと過ごすことでストレスを解消
していたのだった。
きれいなスーツも、上品な立ち振る舞いや言葉遣いも、桃子にはまだ苦
痛でしかなかった。
やっぱり、慣れないことはするものではないのだ。こんなことになるの
だから。
桃子は、ふらふらとこの店に入ってきたことを後悔した。
「そうそう。今度花木さんの歓迎会をしたいの。花木さんはどんなお店
がいいかしら」

「おぅ、居酒屋だな」
頭の中で声が響き渡っていた。
「りゅう、食べに行くって言ったら、居酒屋以外あるのかい?」
「そうっすよね。桃子さん」
警備員仲間の中では、桃子は古株のほうで、みんなが桃子の意見に倣っ
ていた。
遠い目をしている桃子を、有砂は不思議そうな顔で見つめているが、桃子の
視界に有砂は入っていなかった。

「花木さんって、妄想族?」
目の前で、左右に掌がちらついて、桃子はようやく有砂を見た。
「あ、何ですか?」
有砂は、小ばかにしたように笑っている。
「妄想族…。妄想ばっかりしている人のことです。嫌だわ、花木さんま
で妄想族だなんて」
有砂が、イヤイヤという風に、首を左右に動かした。
「花木さんまで?」
桃子は、自分が妄想族と言われたことより、その言い回しが気になった。
むかしでは、気づかなかったことだ。思慮深くなったというか、仕事
中、言葉をひとつも聞き逃すまいと必死な姿勢がこんなところにも現れ始めていた。
そして、少しでもマシなしゃべり方を身につけようと、相手の言葉を捉
えているうちに、おかしな言い回しや、ちょっとした嫌味なども言葉か
ら感じるようになっていた。
「あ、ごめんなさい。変な言い方したかしら」
桃子は、注意深く有砂を観察した。
「いるんです。妄想ばっかりしている人が。花木さんも気をつけて下さいね」

何のことだ?誰のことだ?
以前の桃子なら、首根っこを押さえてでも聞きだしていただろう。
それをしなかったのは、それが誰だとしても自分には関係ないと思った
わけでも、桃子が大人になったわけでもなかった。
ただ、一生懸命働いてやろうと思っていた場所で、不穏な流れの中に、
自分が巻き込まれ始めていることが怖くなっただけだった。

-第32話へ続く-


    2007/07/25(水) 12:00:00| 笑@会社 | トラックバック:0
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