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No  508

女園秘書室-第21話-


久し振りに会った母親は、桃子の突然の変わり様に、驚いています。
それどころか、あらぬ妄想を抱いて、一人ニンマリしています(笑)
きっと、彼女の中では、もう未来の孫の顔まで浮かんでいるかも知れ
ません…。
桃子は、来週からの仕事に向けて、母がいる間に、なんとかパソコン
の知識を増やしたいところでしょうが。
ガンバレ、桃子!!


第21話

母親は、桃子のメールアドレスを得たことで満足したのか、それ以降何
をするでもなく、電車に乗って帰って行った。
ホームまで見送ると、少し感傷的になってしまうので、いつも改札口ま
でと桃子は決めていた。
「ようやく、地元も自動改札になったのよ」
母は、得意気にチケットを改札に滑り込ませると、夕方の雑踏の中に消
えていった。

さて、また明日から仕事だ。
眠くなるまで、文章を打つ練習をしておこう。
桃子は、パソコンの前に座る。wordを立ち上げて、ローマ字打ちの練習
に打ち込んだ。
「平仮名の配列を覚えてしまえば楽だ」
と思っていたが、おふくろ曰く、
「今はローマ字打ちが主流よ」
とのことだったので、そっちに方向転換してみた。
英語は分からないが、ローマ字ならそれとなく分かる。
それに、もしも将来的に、英語が本格的に必要になったとき、今のうち
にローマ字で打てた方が楽だと思った。
あたし、賢いだろ?
桃子は、斜め前に置かれた全身が写る鏡に向かって、ニヤッと笑ってみ
せた。

翌日、その訓練の成果が試される仕事が回ってきた。
会議資料の作成だ。
いつもなら有砂が作成するようだが、彼女は風邪を引いて休みらしいのだ。
桃子は、有砂の細い身体を思い出していた。風邪を引いてもなかなか治
りそうにもない、身体つき。
かわいそうに。という思いより、この隙に…という気持ちが桃子を支配
していた。

社長の手書きの原稿がある。
それを打てばいいだけだから、たいした仕事ではない。
一時間後の会議に間に合わせれば良かった。
ただ、桃子は、まだ両手をうまく操れない。
アルファベットの場所も、すぐに特定できるわけじゃない。
慎重に作業を進めなければならず、一時間はあっという間に過ぎていく
ことだろう。
以前の会議資料を参考に打ち始めた。

会議の名前や日付までは順調だった。
出席者の名前を打ち込むとき、おかしなことが起こった。
「戸波」と、社長の名前を打ってみた。
「となみ」と打って、変換ボタンを押す。
すると、どうしたことだろう。
「ラ・フランス」
と出てくるのだ。
「あぁ?」
思わず、声を出してしまった。
樹里の鋭い視線を感じた。
一度「ラ・フランス」を消去してから、もう一度「となみ」と打ってみる。
変換を押すと、またも、「ラ・フランス」と出てきた。
どういうわけだ?
もう一度変換ボタンを押すと、今度は、いろいろな漢字の変換候補が出
てきて、ようやく「戸波」と打つことができた。
「ラ・フランス」といえば、果物の洋ナシのことというのは分かる。そ
れは桃子の大好物の一つだからだ。
ただ、戸波とラ・フランスがどんな関係があるのかさっぱり分からなか
った。
ん?もしかすると、戸波とは、フランス語で「ラ・フランス」というの
だろうか。
一人、パソコンの前で首を傾げてしまう。
「何か困ったことでも?」
樹里が、笑顔を向ける。
なんだコイツ。どうしてこんなに笑顔なんだ。
桃子は少しだけ、イスを樹里から離した。
「いえ、別に」
「今日は、五反田さんがいないから、頑張ってくださいね」
それだけ言うと、彼女は立ち上がって、どこかへ行ってしまった。

余裕だと思っていた資料作りも、終了してふと時計を見ると、四十分も
経っていた。誤字脱字のチェックや、コピーをして、桃子は何とか十分
前に会議室へ入室した。

会議中、桃子は上の空だった。
特に、発言をするわけでもなく、ただ、会議参加者の会話をメモに取る
だけなのだが、そのノートにミミズが這ったような字が書かれていた。
有砂がいないときに限って、こんな失態をおかしてしまう。これでは、
有砂がいない隙に、自分だけが社長秘書になるという夢は遠くなる一方だ。
会議内容は、多分聞いていたとしても何が何だか分からなかっただろう
けど、聞かずして議事録を書くのは至難の技だろう。

-第22へ続く-

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No  507

ウィーン第5章-ノックアウト-

5月11日

ホテルに戻ったときには、もう5時半を過ぎていました。
20時半からのシェーンブルン宮殿のコンサート。
20時くらいに来れば、B席(A→B→Cの順で前から並んでいて、そのブロッ
ク内では自由席)の中でも、A席に近い前のほうに座れるよ〜。
とのことだったので、逆算していくと…夕飯をのんびり食べている時間
はありません

本当は、グリーヒェンバイスルという、創業15世紀のオーストリア伝統
料理が食べれるウィーン最古のレストランに行きたかったのですが、場
所もよく分かっていないし、とにかく時間がナイ
(あ、ちなみにここ、ベートーヴェンやシューベルト、ワーグナーなど
の直筆サインが壁に書かれているそうですよ)。
それなら!と、ガイドブックを見て、今日行ったあたりなら、地理的に
分かっているので、シュテファン寺院近くのフィグルミューラーという
お店に決めました。
ここは、ウィーン名物、ウィンナー・シュニッツェルが特大なことで
有名なお店だそうです。
通常は、仔牛のお肉ですが、ここは豚肉。大きくて、お皿からはみ出し
ている写真を見て、ジュルジュルゥです

シュテファンスプラッツ駅で降りて、親切そうな夫婦2組にお店の場所を
聞きました。女性たちは、わたしたちのお腹をさすりながら、
「あなたたちに食べれるかしら?」
「お腹がボールみたいになるわよ〜」
と言いながら、丁寧にお店の場所を教えてくれました。
路地裏のようなところにあるお店に着くと、すでにお店は満席で、外で
並んで待っている人がいます。
え〜、わたしたちには待つ時間がないよ〜ぅ
他を探すか…。そう思って、ガイドブックを開きかけたとき、先ほど道
を教えてくれた4人組が、その路地裏に来たのです。
「いっぱいなのね〜」
「人気があるからね〜」
わたしたちが、ちゃんと無事に着いたかどうか、様子を見に来てくれた
ようでした。
なんて親切な人たちでしょう
そして、
「他のところを紹介してあげるわ」
と一人の女性が言い、
「ここの姉妹店なの。歩いてすぐだから」
と、案内してくれました。
同じ店の名前で、姉妹店が近くにあるとのことで、そちらのほうが静か
で、落ち着いて食事ができるので、彼女達は気に入っているとのことで
した。
路地を抜けて、1分も歩かないうちに、その店には着きました。
席も空いています。
おばちゃんたちに笑顔で手を振って、わたしたちは店内に入りました。

目の前を通過していく、皿からはみ出したウィンナー・シュニッツェル
に、気分は高まり…。ビールを頼みました。小なのに、生中なみの量です!
さすが欧米…。
そして、ウィンナー・シュニッツェルもスモールサイズがあるとのこと
だったので、わたしたちはおとなしく、スモールサイズを注文しました。
サラダとウィンナー・シュニッツエルで、12ユーロくらいです。
ビールでほろ酔いして、時間のことなどすっかり忘れ…、運ばれてきた
シュニッツェルが、スモールとは思えないサイズで大爆笑
ウィンナーシュニッツェルALL


これ、わたしが持っていたガイドブックとの比較です。
ウィンナーシュニッツェル比較

いくら、薄く叩いているとはいえ、この量はハンパじゃないですよ。
しかも、久々に飲んだビールで、お腹はすでにポッコリ。
サラダも、居酒屋なら4人くらいで食べてちょうどいい量だし、シュニッ
ツェルを、マヨネーズとケチャップで食べたものだから、すぐに動く気
分ではなくなってました。
味?味は、かなーり美味しかったです。
サラダはシャキシャキ新鮮野菜。
シュニッツェルは、マヨorケチャップをつけなくても、塩コショウで、
しっかり味がついていて、Goodです。

食べ終わって時計を見たときには、もう19時50分。
え…?ヤバくない?
宮殿コンサートは、20時半から。
そして、コンサートが行われるシェーンブルン宮殿までは…?
行きかたはなんとなく分かるけど、何分くらいかかるのかは、まったく
分からりません

ほろ酔いしている場合ではありません。
「珈琲かデザートでも?」
と笑顔のウェーターさんに、
「コンサートがー」
と叫び、わたしたちは店を後にしました。
生中1杯飲んだ後に、駅まで猛ダッシュです
しかも、最寄り駅のシュテファンスプラッツ駅ではなく、その1つ先の
カールスプラッツ駅へ(ザッハーの近くです)。
カールスプラッツ駅から1本の場所だったわけで…。

さて、コンサートには間に合ったのでしょうか?
モーツァルトの墓を見付けられなかった悪夢が一瞬頭をよぎりつつ…
わたしたちは、地下鉄に飛び乗ったのでした。

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