笑@会社

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女園秘書室-第20話-


久し振りに会った母親は、桃子の突然の変わり様に、驚いています。
それどころか、あらぬ妄想を抱いて、一人ニンマリしています(笑)
きっと、彼女の中では、もう未来の孫の顔まで浮かんでいるかも知れ
ません…。
桃子は、来週からの仕事に向けて、母がいる間に、なんとかパソコン
の知識を増やしたいところでしょうが。
ガンバレ、桃子!!


第20話

彼氏がどうとかいう話は、宙に浮いたままとなった。
ただ、携帯電話が鳴るたびに、桃子が会社からではないかといちいちチェ
ックしている様を、桃子の母親は、男からではないかと気にしているよ
うだった。
「それで、パソコンは少しは使えるようになったの?」
何かにイラついているかのように、彼女は、キーボードをコツコツとた
たいてみせる。
「あぁ、まぁね」
桃子は、曖昧な返事でとどめておいた。
それは、あまりできないと返事をしたのと同じだった。
本当にできるのなら、桃子が自信満々に「できる」と答えることを母は
分かっているだろう。
「分からないことがあったら、どんどん聞きなさい。お母さんにだった
ら、恥ずかしくもないでしょ」
恥ずかしいさ。
パソコンを誰でも持つようになって、何年も経っている。
時々、地域で開講しているパソコン初心者の教室は、「高齢者対象」な
どとなっていて、若者世代が行くような場所ではない雰囲気に思えた。
本来なら、桃子が母に教えるような立場なのだろうが、これに関して
は、まるで逆になっている。

桃子の母は、手持ち無沙汰のようだった。
指は、カチカチとテーブルの上をたたき、まるで桃子にパソコンを教え
たがっているようだった。
そうだ、一つ聞いておこう。桃子は、疑問に思っていたことを母に問い
かけた。
「そういえば、メールのことなんだけど」
話しかけると、彼女は嬉しそうな顔をした。
「海外も日本も同じ速さで着くのか?」
母は、首をかしげたきり、それを元の位置に戻そうとしなかった。寝違
えて、首を痛くしたかのように見える。
「海外?!」
すっとんきょうな声を出した。
「海外って、桃子ちゃん。やだわぁ、国際結婚なの?」
また、話が結婚の方向へ向かっていく。
どういう頭をしているんだ?
それだけ、桃子の結婚のことを心配しているのだろうが、本人にとって
は、ありがた迷惑な話であった。
「何でもそういう話に結びつけるなよなー」
桃子は、少し声を荒げて母親の横に座り、パソコンを立ち上げた。
この古いアパートにいても、今は世界中のありとあらゆる情報が手に入
るのだから、不思議で仕方なかった。パソコンを始めたばかりの桃子に
とって、どうしても理解できない世界だった。

いまだに何も理解できていない桃子だったが、電器屋や大家から散々説
明を受けて、簡単にインターネットを始めることができた。アパートで
一括してブロードバンドサービスに加入していたのが幸いした。
「あらっ、この前パソコンの初歩的なことを聞いてきたと思ったら、も
うインターネットに接続してるのね」
母親も驚いていた。
「どうしてこんな線だけで、世界中の情報が手に入るのか、不思議で仕
方ないよ」
パソコンにつながった線を、桃子はそっと指でなぞってみる。

桃子の母親は、立ち上がったパソコンで、早速メールソフトを開いている。
どうしても、桃子が世界のどこかにいる誰かと、密かにコンタクトを取
っているかということが気になるらしい。
だが、残念ながら、このパソコンのメールアドレスは、誰にも教えてい
なかった。
受信トレイにあるメールはただ一件。
「Outlook Expressへようこそ」
というものだけだ。
母親は、面白くなさそうにため息をついた。
しかし、その直後には笑顔になって、
「メールアドレスの交換しよう」
などと、そこら辺の若者が、話すように言った。

桃子が、イエスともノーとも言う隙も与えることなく、彼女はアドレス
帳に、自分のアドレスを登録した。
そして、自分宛にメールを送って、笑顔になった。
メールは苦手だ。携帯電話のメール機能でさえ、ほとんど使ったことが
ない。
用件は、ほとんど電話で済ませている。
「電話」なのだから、「電話」として使えばいいことだ。
時々、同世代で、ずっと携帯電話をいじっている人を見たりしている
と、桃子は吐き気を覚えた。
あいつらは、どうして会話をしないのだろう。無機質な文字の羅列で、
何が面白いのだろう。
「相手がどんな状態で、どんな感情で言っているのか分からないなん
て、つまらない」
以前、付き合っていた彼氏に、桃子はそう言ったことがある。
「絵文字とか、顔文字とかあるじゃん」
彼氏が横棒やカッコなどを使って、人の顔をメールしてきた。
「これが顔文字かー」
などと、ため息をついたのを思い出した。
「こんなことやってたら、普段だってメールするのが遅いのに、どれだ
け時間かかると思ってるんだ?」
そういうと、彼は笑った。
「だから、辞書に登録しちゃえばいいんだよ。登録してやるよ」
などと、桃子の携帯を勝手に取り上げて、一時間くらい無言で登録作業
に取り組んでいた。
使い方を聞くと、「かお」と打てば、いろいろな顔文字が変換候補にな
って、現れてくるという。
「登録してあげたんだから、今度から使えよ」
頼んでねぇよ。
心の中で悪態をついてみた。
時々は使ってみたけれど、途中からはアホくさくなって、やめてしまった。
やっぱり、メールで会話をするなんて好きじゃない。
だんだんメールを打つ回数が少なくなった桃子に、彼は文句ばかりいう
ようになった。
それが引き金となったわけではないけれど、別れることになって、桃子
はやっと心が穏やかになった。
そして、ますますメール嫌いになっていた。

-第21へ続く-


    2007/05/28(月) 12:10:20| 笑@会社 | トラックバック:0
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