笑@会社

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女園秘書室-第15話-


次々に桃子に起こる試練。
有砂も樹里も、強敵な予感。
何か一発逆転劇が起こって、桃子が働きやすい環境になってくれたら
いいのですが…。それも、まだまだ先の話でしょう。
とりあえずは、パソコン!!これをきっちり覚えて、仕事をスムーズ
にできるようにすることにしましょう。


第15話

桃子の行動や言動を逐一チェックしているのか、それとも次に何をすべ
きかを熟知しているのか、桃子が電話を切ると、樹里が、
「車は、内線の7777に電話をしてください」
と言った。
怖い女だと思う。
こんな人の隣に座っていると思うと、気が気ではなく疲れきってしまい
そうだ。
7777へ電話をすると、女性が出る。
「花木といいますけど」
かけたほうが名乗るべき。桃子は丁寧に名前を告げる。
「あぁ、新しく社長秘書になられた方ですね。わたし、社用車管理部の
大井といいます。時間と行き先をお願いします」
丁寧で優しい話し方だ。
会社に来て、初めてホッとしたような気がする。

車に乗り込んでから、桃子のお腹は、重々しく何度も鳴った。
有砂が、笑いを噛み殺している。
社長を挟んで反対側に座っている有砂に聞こえるのだから、もちろん社
長にも聞こえているのだろうが、目を瞑ったまま、微動だにしなかった。
有砂は離れて座っているのに、狭い空間にいるせいか、微かな香水の匂
いは、桃子のところまで漂ってきた。
普通、偉い人と車に乗る場合、誰がどこに乗るべきか決まっているらしい。
高級車だから、車内は広いし、どこへ座っても乗り心地は悪くはないけ
れど、社長はあえて、一番窮屈な場所を自ら選んだ。
「車が止まった時、誰かが襲ってきたらどうする?真ん中に乗っていれ
ば、それが防げる可能性は充分高い」
というものだった。
その通りだ。
そして、裏を返せば、桃子や有砂に万が一のことがあっても、それは仕
方のないことだと思っているのだということも分かった。

初めての会席料理は、箸が進むものではなかった。
こんなところでのマナーなど知らないし、会話は難しいものばかりで、
何も良い事はなかった。
有砂や相手の秘書は、しきりに相槌を打ったり、時々は、賢そうなとこ
ろをアピールするかのように、景気がなんとやらという話をしていた。
あたしも何か言わなければイケナイ。
桃子は、必死に考える。
今朝のニュースで話題になっていた殺人事件の話なんかどうだろうか。
いやいや、食事中にそんな暗い話題はないだろう。
先ほどから、桃子を除いた四人は、株の話で盛り上がっている。
「かぶ」といったら、食べるカブのことしか知らない。
でも、食べるカブのことだって、語れるほど何を知っているわけではない。
美味しいご飯を食べているというのに、味など全くしない。
いつもの場所で、いつもの仲間と、バカな話をしながら食べるコンビニ
弁当のほうがよほど旨い。

「花木さんは、株はやらんのか」
社長が、急に話を振ってきた。
桃子は、箸で掴んでいた見たこともない食べ物を、危うく落としそうに
なる。
「今はどこのが買いかな」
取引先の社長も話しかけてくる。
四人の好奇心いっぱいの目が、刺さるように痛い。
「自社株を買って、大いに頑張ってもらえるといいな」
社長がフォローとも言うべき台詞を吐いて、和やかな空気が流れた。
まったく、難しい話を振ってきやがる。
ただ、ここにいる桃子以外には、難しくもなんともないし、楽しい話な
のだろう。
今や、パソコンの前に一日中座って、株の取引をしている若者も増えて
いるようだ。
本屋に行けば、「株」という字がやたらと目に付く。
働かなくてもお金が入ってくるという仕組みが桃子には分からなかった。
人間は、汗水流して働いてこそ、お金をもらう意味があるというのに。

でも、自分が頭がキレるヤツになったらどうだろう。
桃子は、デキル女になった自分の姿を思い描いた。
こうして、これから長い間社長について回れば、嫌でもいろいろなこと
を覚えていくに違いない。
そうしたら、今は難しいと思える話題でも楽しく語れるようになるのだ
ろうか。いや、単に話しについていけるようになるだけであって、決し
て楽しくはないだろう。
あぐらをかいて、ガハハと笑えるのが本当の「楽しい」だ。

-第16話へ続く-

    2007/05/07(月) 12:10:16| 笑@会社 | トラックバック:0
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