青っ白い顔して、風に吹き飛ばされそうなあんたたちに、
社長が守れるかい?
花木桃子、33歳にして人生の春を迎えるところ。
大きな会社に勤務するどころか、その会社の社長秘書に抜擢。
でも、その理由って?
力任せが得意な桃子にできることはなに?
桃子秘書の物語、始まります。第4話1.スケジュール管理 もっとも大切な仕事である。
分刻みの場合もあり。移動時間(車での移動になるため、渋滞も予測し
ておく必要あり)も含め、正確に管理すること。パソコン管理:重要。
ひとつ読んだだけで、頭が痛くなってきた。
自分の予定さえもアバウトな桃子にとって、人の管理など到底無理な話。
「こんなこと紙に書くことじゃないだろう」
苛立って、声を荒げると、負傷した肩がじわじわと痛くなって、桃子は
ベッドに体を押し付けた。
「パソコン管理?」
痛みが増さないように、小声でつぶやいてみる。
そんなもの手帳に書いておけばいいことだ。
だいたい、インターネットだITだ、さっぱり意味が分からないんだよ。
ITのことも、つい最近までは「イテー」だと思っていた桃子は、額に薄っ
すらと汗を滲ませていた。
刺された傷の深さは、たいしたことはなかったが、桃子は一日だけ入院
を強いられた。
殺風景な部屋。それもそのはず、突然病院に連れてこられ、誰も見舞い
に来ることなく退院するのだから。
翌朝、朝ご飯を食べている最中に、またしても阿東が現れた。
手には、有名デパートの紙袋がぶら下がっている。
「これは、社長からだ。サイズが分からなくてね。着れなかったら言っ
てくれ。すぐ交換しに行く」
受け取った紙袋の中を覗くと、水色の薄手のセーターと白いスカートが
入っていた。
はは…。
桃子は、阿東に向かってぎこちなく笑った。
「誰が着るんだよ。こんな上品な服」
心の中で毒づいてみる。
桃子の普段着は、スウェットやジャージ。ゆるゆるのダラダラだ。
「外に出ているから、着てみてくれ」
阿東が言って、病室を出て行く。
「ちぇっ」
食べ物が乗ったトレイを、簡易イスの上に置いて、ベッドから降りる。
桃子は、水色のセーターを広げてため息をつく。
「デカッ」
広げてみるとかなり大きい。
「あいつ、あたしがこんなにデカイと思っているのかい」
ドアに向かって睨みつけてから、セーターに袖を通す。
それはまるで測ったかのように、桃子にピッタリだった。白いスカートも。
腹立たしいやら、悔しいやらで、桃子は顔を歪めた。
タイミングを見計らったかのように、阿東がドアをノックする。
「着替えは済んだかな?」
「はい」
スカートを履いたからか、少し大人しくなって、返事をした桃子。
「やぁ、ちょうどいいね。早速だが、明日から社長についてくれ」
阿東のメガネの金縁に、窓から差し込んだ日差しがあたり、一瞬目がく
らんだ。
余計な話は、一切しないで、阿東は病室を出て行った。
さて、どうするべきか。
怪我の痛みより酷い痛みが、桃子の頭を襲う。
昼の病院は、想像以上に騒々しい。そんな中で真剣に考え事をするほう
がムダだった。
会計は会社が済ませてくれたようで、桃子は、そのまま病院をあとにした。
アパートへ帰宅する前に、お金をおろしに銀行へ向かった。
一人暮らしの生活でも、贅沢をしなければ、僅かながらでも貯金はできる。
桃子の体を支えているものは、米。米さえあれば、何とか生きていけ
る。それに酒があれば、なおさら言うことはなかった。金が底をついた
ときでも、米だけは外せない。
貯金で貯まったお金は、微々たるものだが、別口座に設けてある。有効
に使えるときが来るまで取っておこうと決めていた。
そのときが、いよいよやってきたような気がした。
決して堂々と宣言するようなことではないが、桃子は、パソコンを買う
ことを決意した。
「立派な社長秘書になってやる」
歩きながら、独り言を繰り返す桃子は、通りすがりの人たちから、異様
な目で見られているのにも気付かない。
「勉強がなんだって言うんだ。社会に出れば、そんなもの関係ないさ」
誰かと肩がぶつかって、桃子は相手を睨みつけた。軟弱そうな、細い男。
桃子の目におびえたように逃げていく。
「どいつもこいつも情けねぇな」
また前を向いて歩き出した。
何事にも挑戦する勇気と、人一倍の努力で、白旗を支えるくらいの存在
になってやる。
その決意をみなぎらせた桃子の足取りは、一歩一歩地面を踏みしめるか
のようだった。
-第5話へ続く-
テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学
2007/04/09(月) 12:10:21|
笑@会社
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