笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!

ニック・バトル-第76話-

主人公、柚木朝子、29歳。
本当に別々の道を進むことになったわたしと幸希。
再会するときは、お互い、いまより少しでも成長していたいね。
過去数回しか会ったことがない幸希に頼らざる終えなかった
若月さん。なんだか大鳥女史と似ていて放っておけない。
ん…?心配しなくてもあの2人友達になれるんじゃないかな。
その前に、女史も新たな一歩を踏み出してくれるといいんだけど。
最近出番なしの湯河原、若月さんへの思いは続いているのかな?
わたしは、もうそろそろ旅立ちます。


第76話

忙しいときは、時間が欲しいと思うのに、時間があるときは、忙しさ
を求めてしまう。なんて、身勝手なんだろう。
こうして、イギリスへ向かう準備期間としてもらったお休みは、あま
りにも退屈だった。
何をしようにも、荷物はすでに封印されていて、趣味である料理も一
切していない。
マリアを会社まで送って、することもなくそのまま自宅マンションへ
戻ってきた。
テレビをつけて、ボーっと画面を眺めていると、携帯電話が鳴った。
同期専用の着信音。
画面を見ると、湯河原の文字。
「なんだー」
と言ったのは、他の誰かからの電話を期待してのことではない。

「朝子、今日の夜って空いてない?」
「突然だね。何かあった?」
湯河原は勤務中だというのに、自分の暇つぶしのために、つい聞いて
しまう。
「いや、いまはちょっと」
そりゃ、そうだ。
まだ午前9時を回ったところ。会社はバタバタと動き出す時間である。
「空いてるよ」
なぜだか、予定ががら空きの1週間。
みんな、準備に忙しいと思っているのか分からないけど、何の誘いも
なかったこの週だった。だからって、どうしてみんな「今日」の「今
日」になるわけ?
と、不満を感じつつも、今日は湯河原とご飯の予定を入れた。

湯河原の所属する経理部も、かなり忙しい部署だ。
月末・月初にかかわらず、朝から晩まで猛烈に数字を追いかけている
姿を、この7年間見てきた。
わたしなど、4桁以上の数字を見ただけでも、吐き気がするというのに。
湯河原は、その中でも、かなり期待をかけられていて、日付を超えて
会社にいることなど日常茶飯事のようだった。
今日はいったい何時になることやら。
夕方になって、少しずつ支度を始めると、湯河原から「7時に会社の最
寄り駅」という連絡が入った。これは、かなり早い時間設定である。

2日前に会ったばかりのはずの湯河原だったが、なぜか、がらりと印象
が変わっていた。
髪を短めに切り、ハードに固めているのか、ツンツンしている。目は
何か自信に満ちていて、ずいぶん男らしくなったように見える。
駅近くの居酒屋に入る。気取らない雰囲気が好印象のお店だ。いつで
も客であふれかえり、賑やかで華やかな場所なので、居心地が良い。
「実はね」
ドリンクと、すぐに出てくるおつまみ系を数点オーダーし、店員が去
っていくと、慌てて口を動かす湯河原。よほど、早く何かを伝えたい
のだろう。店員がいる間も、落ち着かない雰囲気だった。
「今日の朝、ロッカールームの前で、若月さんとバッタリ会ったんだ」
今朝、マリアとわたしが会社の前で別れた直後のことのようだ。
「彼女、いつも良くしてくれてありがとうって言うんだ。あんまり何
もしてないんだけどね」
暑くもないのに額に汗をかいていて、それをおしぼりで拭った。
「それで、良かったら、今度2人で遊びに行かないかって言うんだ。
俺、ビックリしたよ」
拳でテーブルをドンと叩く。
先に運ばれてきていたお冷のコップから、水しぶきがあがる。
「どこ行ったらいいかな、朝子」
コップからこぼれた水を、先ほどは額を拭っていたおしぼりで拭きな
がら、わたしの顔を見る。
ゲッ、もしかして、今日のお話は、湯河原のデート先を決める相談?
湯河原ちゃん、男なんだから、それくらい決めちゃって。
そう言いたいところだけど、見ているほうが歯痒くなるくらい恋愛に
疎い湯河原のこと。
眉毛が困ったちゃんのごとく、八の字に垂れ下がっているのを見ると、
何かしてあげなければという気持ちになってしまう。相談に乗ってあ
げましょう。これで、また懸案事項が1つ減って、すっきりするじゃな
いか。

わたしたちは、2人にしては多すぎるほどの注文をし、のんびりと食べ
ながら作戦を練る。
結局、湯河原より熱くなるわたし。
「大丈夫だよ、朝子。若月さんが幸希になびかないように、俺が頑張
るから心配するな」
妙な正義感を見せる。
そっか、湯河原知らないんだよな。わたしたちが別れたの。
そして、言う必要はまったくないけれど、幸希と若月さんの過去も。
「ねぇ、湯河原。内緒なんだけど……わたしと幸希もう終わったの」
一瞬、
「ふーん」
と頷いた彼だったが、数秒後に、店内に響き渡るような大声で、
「えーーっっ」
と叫び、こっちが絶句する騒ぎとなった。

-第77話へ続く-


    2007/03/08(木) 12:12:27| 笑@会社 | トラックバック:0
  1. | コメント:4