笑@会社

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ニック・バトル-第75話-

主人公、柚木朝子、29歳。
本当に別々の道を進むことになったわたしと幸希。
再会するときは、お互い、いまより少しでも成長していたいね。
過去数回しか会ったことがない幸希に頼らざる終えなかった
若月さん。なんだか大鳥女史と似ていて放っておけない。
ん…?心配しなくてもあの2人友達になれるんじゃないかな。
その前に、女史も新たな一歩を踏み出してくれるといいんだけど。
最近出番なしの湯河原、若月さんへの思いは続いているのかな?
わたしは、もうそろそろ旅立ちます。


第75話

マリアの家は、賑やかだった。彼女の父方の祖父母は、明るく豪快だ
し、子供のレイちゃんも、最初からわたしに突進してくるほど元気だ。
電車にポツンと一人で座っていたときのセンチメンタルな気分は、一
気に吹き飛んだ。
「お姉ちゃんは、ママのお友達?」
ご飯粒やソース類を口の周りにたくさんつけて、レイちゃんがわたし
の顔を覗き込む。
「うん、そうだよ。同じ会社で働いているお友達なんだよ」
頭を撫でてあげると、彼女は喜んで奇怪なダンスを踊る。
「じゃあ、いつも遊べるね。ねっ、ねっ」
「うん。いつも遊べるよー」
レイちゃんの右手とわたしの左手がつながる。こう言って、いつも遊
べなかったら、嘘をついたって言われるのだろうか。
そのことで、彼女の心が傷つかなければいいけど。
「いいの、朝子」
ほら、座りなさい。
マリアは、お母さんの顔になって、レイちゃんを座らせる。右手に箸
を持たせて、お皿を近づけてあげる。
「レイ、朝子お姉ちゃんはね、もうすぐ外国に行っちゃうんだよ」
レイちゃんは、いままでのはしゃぎようからは想像できないほど大人
しくなった。
テーブルの上に箸を放り投げ、わたしの左手をギュッと握る。
子供とは思えないほどの力だった。
彼女も、こうやって転々としてきたことによって、仲の良かった友達
とお別れをしてきたのだろう。そのうち、ユウナのようになって、友
達を作らなくなって……。そんな風になって欲しくなかった。
「ねぇ、レイちゃん。お姉ちゃんは遠くへ行っちゃうけど、一度友達
になったら、会えなくなっても友達なんだよ。レイちゃんとも、レイ
ちゃんのママとも、ずーっとお友達だよ」
こんな言い方で理解してもらえるのだろうか。
不安もありつつ笑顔で話すと、レイちゃんは言った。
「そうなの?会わなくても、遊ばなくても、一度友達になったら、友
達なの?」
わたしとマリアの顔を見比べる。
「そうだよ。だって、レイ。中国にいるおじいちゃんやおばあちゃん
は、会わなくなったら、おじいちゃんとおばあちゃんじゃなくなっち
ゃう?」
レイちゃんが、首を横に振る。
「ね、お友達も一緒」

大人になればきっと分かる。
本当に友達になるべき人とは、長い間会わなくても、友達でいられる
のだ。付き合いの長さも関係ない。大人になれば、確かに友達を作る
機会は減っていく。でも、わたしはこうしてマリアに出会って、友達
になった。多分、彼女とは一生付き合っていけるだろうと思う。
「じゃあ、来年の夏休み、朝子お姉ちゃんのところに遊びに行こう。
ねっ」
レイちゃんは嬉しそうな顔をしてわたしを見つめ、両手を高く上げた。

レイちゃんと、マリアの祖父母は早くに寝てしまった。まだ夜の10時。
わたしたちが眠るにはまだ早い。
「泊まっていって」
みんなが口々に言うので、明日の朝、マリアが会社に出るときに、帰
ることにした。
「下着とかないんだけど」
「一日くらいどうってことないでしょ」
と平然とするマリア。
「ま、いっか」と思うほど、わたしも良い加減にいい加減になった。

「レイのこと、ありがとう」
わたしたちは、夕飯を食べた部屋でくつろいでいた。
「あの子には寂しい思いをさせたくないって思ってるの。もし、わたし
が本当に好きな人ができて、その人が、わたしのことも、レイのことも
本当に好きになってもらえたら、それが一番幸せかな」

彼女は、本当は、そんなに攻撃的な人間ではなかったのだ。
自分の弱さを見せたくない。これまで傷ついてきた心をこれ以上えぐら
れたくない。攻撃されないためには、攻撃する。そうやって、自分の身
を守ってきたのだと思う。
「ラクになった?」
わたしは、いつかユウナがそうしてくれたように、マリアの背中をさす
った。
「朝子にとって、嫌なヤツだったのに、友達になってって。おかしかっ
たでしょ?わたし、子供のために幸希のことも欲しかったけど、それ以
上に友達が欲しかった」
膝を抱えてうつむいた彼女の肩に、そっと手を置いて、わたしはしばら
くの間さすっていた。
「もう大丈夫よ。わたしもいる。ユウナもいる。幸希も、湯河原も」
「でも、朝子行っちゃうんだよね」
消え入りそうな声でつぶやく彼女の背中を、わたしは一発ドンと叩く。
「遠くて会えなくても、友達でしょ。レイちゃんに笑われるよ」
そう言ったわたしの目も、涙ぐんでいたと思う。

-第76話へ続く-


テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

    2007/03/07(水) 12:12:07| 笑@会社 | トラックバック:0
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