主人公、柚木朝子、29歳。
朝子に吹いてきた新風。追い風となるのか、向かい風となる
のかは、朝子次第。
仕事での飛躍、幸希との関係、湯河原の恋、若月さんの心。
そして、大鳥女史も動く?
みんなの幸せを望みたいところだけど、そういうわけにも
いかないところ。
決断の日は間近?第53話左手には小さなバッグ一つ。
中には、お財布と携帯電話とキーケース。
右手には、一枚のメモ用紙。
大鳥女史の住所が書いてある。
今まであまり仲良くしていなかったけれど、年賀状などの仕来
たり行事用に、同期全員の住所が控えてあった。
女史の住むマンションの前まで来て、ため息をついた。
「すごいや」
それは、わたしの住むマンションとはあまりにも格差があった。
「役員室って、特別手当があるのかな?」
思わずそう思ってしまうほど、高級感が漂っている。
右手に握っていた紙で、部屋番号を確認する。
「1007」それが、女史の部屋だった。
鍵を持っていない者は、一つドアを開けた空間の壁についてい
るボタンで、住人を呼び出すようになっている。
その空間へ入るドアに手をかけた。
空間を隔てた向こう側。
このマンションのロビー。
広く、緑が溢れ、きらびやかな照明は、まるでホテルのロビー
のようだ。
そこに偶然にも大鳥女史が立っていた。
女史だ。
思わず顔が笑顔になり、ロビーへとつながる扉を叩こうとした。
大鳥女史も、笑顔になった。
ただ、その笑顔は、わたしに向けられたものではなかった。
女史は、わたしが見えない位置にいる人物に向かって、笑顔で
手を振った。
「まずいかも」
彼女のあれほどの笑顔の相手。男の人に違いなかった。
踵を返す直前に、わたしは、その人の顔を見てしまった。
「どうして?」
絶対に見てはいけなかった相手だった。
だから、足が動かなかった。
わたしは、外とロビーに挟まれた異様な空間で、ただ一人突っ
立っていた。
笑顔の二人。
わたしを見て、二人は一瞬息が止まっただろう。
まるで、この世に存在しないなにかを見たような、驚愕の表情
を浮かべた。
その顔を見て、わたしの足は、突如動いた。
外へ向かって、走り出していた。
「どういうこと?なんで?」
足は速いほうではない。
必死になって走りながらも、疑問ばかりが頭に浮かぶ。
わたしが走り出した時、女史の足も動いていた。
そして、外に出てから、何度も「朝子」と呼ぶ声も聞いている。
でも、もうこれ以上探しに来ないだろう。
それくらい、遠くまで走ってきた気がする。
通りかかったコンビニエンスストアの裏手に回り、地べたに座
り込んだ。
「またこの格好」
独りでに笑えてくる。
コンビニの入口に面している道路は騒がしいのに、店を隔てて
裏手は、とても静かだった。
「ビックリした」
走ったせいもあって、まだ心臓が猛スピードで音を立てる。
「どうして、有田課長と一緒なわけ?」
両手で抱えた膝の上に頭を乗せてつぶやいてみる。
彼は、もう結婚してるし、子供も二人いるし。
三年前ほど前には、家だって建てて、新興住宅地に引っ越した
はず。通勤が1時間半もかかるって、苦笑いしてたっけ。
一体、どうなってるの?
-第54話へ続く-
2007/02/08(木) 12:12:50|
笑@会社
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