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No 14
Date 2006・01・31・Tue
第十話「いやぁ、ボク、遠野さんが好きなんですよね」
重たい雰囲気を払拭するかのようにマンキチが言う。 彼は、ビールを飲んで上機嫌になっていた。 いまさら言わなくても分かっていることを、何度も繰り 返す。 「遠野さん、いいですよねぇ」 そんなときのマンキチの目は、天井の一点を見つめていて、 少女漫画のように輝いている。 大げさなほど輝いていて、本当に星のマークが見えて きそうだ。 「夏樹ちゃんは、確かにいいけど」 そう。確かに、同性のわたしから見ても、彼女は素敵な 雰囲気を持っている。 けれど、マンキチはどうか。 というより、彼女から見たマンキチはどうかということが 問題である。 実は、うすうすマンキチが自分に気があることを察知して、 彼を避けているのだ。 わたしの目から見ても、それは明らかだった。 それでも、マンキチは、あくまでもポジティブなオトコで、 ただ照れているだけだと錯覚している。 そして、彼はわたしに宣言した。 来年の四月四日。 三十六歳の誕生日までに、彼女を振り向かせてみせると。 そして、今よりワンランクもツーランクも上のオトコに なるべく、今から自分を改善し、磨きをかけると。 果たして、付き合うことができるのか。 こうして、マンキチの両思いへの長い旅が、始まったのだった。 |
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No 13
Date 2006・01・30・Mon
第九話マンキチは、大学では経営学を専攻していた。
成績は常にトップクラスで、当たり前のように大学院へ 進み、また、当たり前のように大手の会社へ就職したの だという。 エリートとオタクの紙一重を彷徨い、気付けば勉学と 仕事一筋、彼女もいなかったそうだ。 好きな人はいたらしいけれど、本を相手に勉強してきた マンキチは、女の子とどう接したらいいか分からず、 結局恋は実らなかったらしい。 それでも、頭の中では常にその彼女とデートをしていた ようだ。 空想デート。 頭で恋をしていたのか。 そして、そんな関係でも、マンキチの中では元彼女として 記憶されているのだ。 「ねぇ、マンキチさん」 マンキチは、席を案内してくれたスタッフを虚ろな視線で 追っている。 どうやら好みのタイプらしく、口元が緩んでいるのが分かる。 人差し指の第二関節で、テーブルを三回ほどノックすると、 マンキチはようやくわたしに目を向けた。 「マンキチさんって、今まで何人の人と付き合ったことあるの?」 「えー、多少は」 まだ何も飲んでいないのに、顔を真っ赤にして、わたしの質問 には答えない。 「空想上の彼女は、両手で数えるくらいいますしね」 過去を思い出したのか、天井を見上げながら指折り数えている。 それって、一方的に好意を持っていただけで、彼女じゃない じゃん。 そう言ってやろうとしたけれど、マンキチがうっとりとした 目をしていたのでやめておいた。 多分、その女性たちを思い出しているのだろう。 あらかじめ注文していた生ビールがやってきて、わたしたちは 無口になって飲んだ。 |
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No 12
Date 2006・01・29・Sun
第八話「あら、万田さん。彼女?」
常連のマンキチは、名前も顔もすっかり覚えられていて、 数ヶ月に一度しかこないわたしは、不運なことにマンキチ の彼女になっている。 「違いますよぉ」 慌てて否定するマンキチ。 否定することは正解なのだけれど、マンキチに否定されると 腹立たしいのはなぜだろう。 わたしも一足遅れて、 「まさかー、やめてくださいよ」 と言った。 店員の女の子は、そんなことには興味がないようで、笑い ながら席に案内してくれる。 わたしは、落ち着かなかった。 マンキチと二人でいるところを会社の人に見られたらと、 気が気ではない。 特に、あの嫌味な部長に見られたら最後、いつまでも からかわれるだろう。 そんなこともおかまいなく、通されたところは、窓際の席。 「いつもの場所、キープ」 マンキチが笑って、ブイサインを出した。 そこは、彼の指定席らしかった。 子供だな。わたしは心の中でだけ、そう思った。 |
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No 11
Date 2006・01・28・Sat
第七話ある日のこと、マンキチが珍しくご飯をおごってくれる
と言い出した。 これまでの経験上、こんなことはありえないことだ。 明らかにわたしのほうが給料が低いというのに、時々、 「おごって」とせがんでくることさえある。 きっと夏樹ちゃんを誘うのに、わたしをだしに使ったに 違いない。 そう思っていたのに、指定された場所に行くと、マンキチ が一人で待っていた。 「夏樹ちゃんは?」 すっかり彼女も来るものだと思い込んでいたわたしが聞くと、 「えっ、遠野さんに声かけちゃったんですか?」 彼は、とても驚いた顔をわたしに向けた。 夏でもないのに、額から汗がツーッと流れ落ちている。 「わたしは、誘ってないけど、マンキチさん誘ったんでしょ?」 「誘ってないですよぉ」 彼は、目を白黒させている。 おどおどしながら周囲を見回す。 その姿は、かわいいというよりこっけいだ。 思わず吹き出しそうになると同時に、わたしは少しだけ イライラしていた。 どうもこのマンキチの敬語に慣れないからだ。 年下に使われるならまだしも、かなり年上の彼に使われると、 むずがゆい気分になる。 何度「使わないで」と言っても直らないので、最近は苛立ち ながらも放置している。 場所は、マンキチ行きつけの焼肉店。 地元では美味しいと評判の店だ。 ロッジ風の建物で、ドアを開けると元気な声が飛んでくる。 「いらっしゃいませー」 若いスタッフが多く、威勢がいい。 落ち込んでいても、なぜだか元気になってしまう雰囲気の ある店だ。 |
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No 10
Date 2006・01・27・Fri
今後の展開このブログ……
今のトコロ100%小説でやっていこうと試みていますが、 旅行がスキなので旅行記や、日々のこともそのうち、 Upしていくつもりでいます♪ さてさて、今掲載中の「ワンランク上のオトコ」。 もっとステキな人になりたいと思って、理想を思い描い て、それに近付こうと努力している人はたくさんいると 思いますが、登場人物のマンキチは、それが人とはちょ っと違う方向へ進んでしまう人なんです。 時々、そんな人、いますよね?! これからマンキチがどういいオトコに変わっていくか、 楽しみにしていてください ![]() |
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No 9
Date 2006・01・27・Fri
第六話年齢的に言えば、次はわたし。
何もかも人並み。 特にすぐれた才能もない、凡人。 何度会っても、何日かで忘れ去られてしまうような平凡な 人間だ。自慢できることも何一つなく、毎日を普通に、 そして平和に過ごしている。 最後は、今年入ってきた新入社員三人組。 全員二十二歳の若者だ。 戸辺アキラくん、今井智成くん、遠野夏樹ちゃん。 新人らしく、何を言っても、「はいっ」という気持ちの いい返事が返ってくるので、こっちの気分までシャキっ とする。 わたしは、去年入った「新人」ではあるけれど、社会人 経験が多少あるので、返事もなぁなぁだ。 この三人が入社してきて、わたしたちはものすごく喜んだ。 わたしはといえば、それまでは一番年が近いのはマンキチ。 十歳近くも年が離れているのにだ。 二十代が自分ひとりというのは、これまでの社会人経験上 初めてだったため、遊んだり話したりする相手がいなくて 寂しかったのだ。 また、マンキチが喜んだのは、夏樹ちゃんだった。 彼女は、茶髪で化粧も濃くて、着るものは派手だ。 けれども、言葉遣いが丁寧で、仕事はテキパキとこなして いく。覚えも早く、教えるほうも楽だ。 雑用も文句一つ言わずに、黙って片付けるところなど、 見習わなければと思うところも多い。 彼は、その夏樹ちゃんに、どうやら一目ぼれしたよう だった。 現代風の夏樹ちゃんと生きた化石のマンキチ。 マンキチが必死に夏樹ちゃんを追いかけ、横に並んで 歩いていると、どうも不釣合いだ。 |
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No 8
Date 2006・01・26・Thu
第五話会社自体は、こじんまりとしてアットホームな雰囲気だ。
社長、専務は、もうすぐ六十になろうとしている。 仕事ではかなり厳しく、昔の人にしては珍しく、男女関係 なく仕事を任せてくれる。 わたしが怒鳴られるのもいつもの光景だ。 それでも仕事を終えると、優しく気の良いおじさんに変身 する。 部長は、万年疲れたような顔をしていて、生気が感じられ ない人だ。 嫌味を言うのが大の得意だけれど、根っからの意地悪では ない。 課長は、年中外回りに出ていて、わたしは入社一年もたつ というのに、時々課長の顔が思い出せない。 でも、優しく仕事熱心な人という印象はある。 パートのおばちゃんは、いつも遅刻すれすれでやってきて、 始業前の掃除をサボるのが得意だ。 若い頃に地元のミスコンで優勝したというだけあって、 とてもきれいで整った顔立ちをしているのに、オヤジギャグ を連発し、場の雰囲気を和ませる。 だから、掃除のことでは頭にきていても、なんとなく許され てしまう存在だ。 そして、マンキチ、三十五歳の独身。 マンキチという呼び名がまさにふさわしい古臭い男だ。 体は巨体で、縦にも横にも大きい。まるで熊のようだ。 髪型は、古くからの床屋の壁に張ってあるポスターのように、 一昔前のアイドル風。 かといって、顔は美少年アイドルとは程遠く、甘いマスク とはいえない。 いつもしまりがなく、ヘラヘラと笑っている。 良く言えば、いつも笑顔が絶えない人ということであるが、 どこか爽やかさが足りない。 目指すは、わたしたちが、第一線で活躍している時代を 知らない、昔の男性俳優。 夢は、超高層マンションの最上階の部屋で、ブランデー 片手に星を見上げること。 これをギャグではなく、真剣に語るのだから、最悪極まり ない。 でも、なぜか憎めない人だ。 |
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No 7
Date 2006・01・25・Wed
真壁ユミというヒトこのブログの管理人→真壁ユミです。
大学時代に知り合ったあるヒトに背中を押されるような形で、 文章を書き始め、気付いたら創作が趣味の一つになってました。 2004年4月には、念願の本も出版しました。 「最強部長 須走くん」 コレ以降、出版には至っていませんが、こうしてブログを始め、 自分の書いたものを、多くの人たちに読んでもらえることを望 んでいます♪ 会社や日常生活での面白い出来事をネタに、エッセイ風に読み やすく書いています。 自分でやってしまった失敗も…他人がやってしまったかのよう に書いていたりしてf(^^); ちなみに別ブログでもお笑い小説掲載中。 「果てなき人々」http://blog.goo.ne.jp/xo-lilla-xo/で、 「富士さんはイテー系」という小説書いてます。 普段は、人里離れた山の中腹あたりでOLしてます。 ベンチャー企業ですが、キャリアウーマンではなく、フツウに 働いていて、夜はスポーツジムで張り切りすぎて疲労蓄積!? 海外に一人で行くのが好きだけど、国内旅行には一人で行けな い変わったヤツ。 ダイエット中でも、チーズケーキとメロンパンの誘惑には勝て ないヤツ。 冷蔵庫の余り物で作った料理が、料理コンテストの最終選考ま で残ったことがあり、調子に乗って稀にマズイ食べ物を作り出 す影の料理人。 そんな感じデス☆ |
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No 6
Date 2006・01・25・Wed
第四話今年で二十七歳になる。社会にでて四年目。
まだ若者扱いだし、職場では下っ端に属する年齢だ。 それでも、もう三度目の転職、四つ目の会社だった。 履歴書の学歴と職歴欄が足りなくならないか、そろそろ 心配したほうがいい量になってきている。 この会社もいつまで勤めるのか、さっぱり分からない。 何かもっと自分に合った仕事があるのではないか。 そう思い始めたら最後。 いてもたってもいられなくなって、わたしはまた求人誌を 眺めるだろう。 四つも会社を転々としていれば、世の中そうそう面白い ことには出会わないことも分かってきている。 仕事の内容を重視するか、それとも職場の人間を重視する かも微妙な問題だ。 いくら好きな仕事でも、職場の雰囲気が悪かったり、人間 関係がこじれていたりするとダメだ。 仕事内容が自分に合わなくても、人間関係がよかったり、 好きな人がたくさんいると会社へ行くのも楽しくなる。 でも、いつか、 「この仕事をしていって、自分に何が残るんだろう」 と思うときが来るだろう。 いまの職場でのわたしの仕事は貿易事務で、それなりに やりたかった仕事に就いている。 人間関係は、若者が少なくて寂しい気持ちはあるけれど、 件のマンキチが変わっていて面白いせいか、あまり苦痛を 感じることはない。 だから、これまでこの会社を辞めようと思ったことがない。 面接のとき、現在の部長に、 「若井さんは、うちもすぐ辞めちゃうんじゃないの?」 と言われ、あいまいに笑っていたのを思い出す。 そして、一年たったいま、 「若井さん、いつまでいるの?」 と、時々からかわれる。 |
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No 5
Date 2006・01・24・Tue
第三話わたしがいま勤める会社に入社したのは、一年前の四月。
大手の会社での経験を買われてやってきた。 とは言っても、その会社は二年で辞めている。 二年そこらでやめておいて、偉そうなことは言えないけれど、 辞めたのは、その会社では自分が存在している意味を感じら れなかったことが大きな原因だ。 わたし一人がいなくなっても、代わりは他にいくらでもいる のだ。 「若井さんがいなければ困る」 入社して一年で、自分が求められる存在になれる会社で働き たいと思い始めた。 人間関係もくだらなかった。 昇進のためなら、どんな卑怯な手を使ってでも、人を蹴落と すことなど日常茶飯事だった。 年下の上司から怒鳴られる退職近いおじさんたちも見ていら れなかった。 お茶をいれることと、社内の噂話を生きがいとする女性たち にも呆れるだけだ。 「そんなに口を動かすのが好きなら、営業にでも行ってくれば?」 何度心の中でそう思っただろう。 こんな状態だったから、サッパリと辞めることができた。 親にはものすごく反対された。当然といえば、当然だ。 それまで勤めていた会社に比べれば、かなりの高待遇で、 しかも自宅からは自転車でも通える距離だったのだから。 それでも、自分の道は自分で決めたかった。 もう、親に口を出されて事を決める年齢ではない。 |
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No 4
Date 2006・01・23・Mon
第二話一年前、入社して間もなかったわたしに、彼は、
「万田吉男」 ではなく 「マンキチです」 と自己紹介をしてきた。 そして、是非そう呼んでくれと頭をさげてきたのだ。 お願いされても、すぐにそう呼べるはずもなく、 「マンキチさん」 と呼ぶのに、半年はかかった。 そして、いま会社でそう呼んでいるのは、わたししかいない。 「何でも略せばいいってもんじゃない」 世間でそう思われ始めているのに、「マンキチ」という呼び 名はこの一年でようやく定着したのだ。 しかも、わたしにだけ。 完璧な時代遅れだ。 ま、イイケド。 よくないことは、マンキチが勝手にわたしのことを、 「ワカサギさん」 と呼ぶことだ。 わたしの名前、「若井咲子」を略すと、「ワカサキ」。 それでは、普通の苗字みたいだからと、 「ワカサギさん」 と呼ぶようになった。 「おいしいんだよね、ワカサギって。アハアハ」 マンキチの口元が、だらしなく歪む。 こんなときは、完全に無視するに限る。 下手に突っ込みで返したり、笑ってあげたりすると、 彼は、自分が 「世界一面白いオトコ」 だと勘違いしてしまうからだ。 |
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No 3
Date 2006・01・22・Sun
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No 1
Date 2006・01・22・Sun
第一話わたしの勤める会社に、万田吉男というオトコがいる。
名前は、「キチオ」ではなく「ヨシオ」だ。 それなのに、愛称は「マンキチ」。 これは自分で考えたあだ名で、自ら人にそう呼ぶように 強制している。 普通、愛称というものは自分でつけるものではなくて、 友達などが親しみを込めて呼ぶのにつけるものだ。 万田吉男改め、マンキチ三十五歳。 これまで、家族からは「ヨシオ」、それ以外の人からは、 「万田くん」か「万田さん」としか呼ばれたことがなく、 寂しい思いをしていたのだと、本人は語る。 会社では、苗字に「さん」付けでもいいかもしれない けれど、友達からもそう呼ばれると、なんとなく疎外感を 感じるらしい。 「マンキチ」と決めた理由を尋ねると、 「略したときの響きが、最高にいいじゃないですか。 芸能人になった気分ですよ。アハッ、アハッ」 と、不気味な吐息を漏らしながら笑う。 確かに芸能人っぽいかもしれないけれど、なにか古めかしい 感じを受ける。 |
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| 笑@会社 |
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