笑@会社

日々面白いことを求めて爆走中!!
No  776

まるもり 第2章どん底-第12話-

まるもり 第2章どん底-第12話-

 でもね、わたしたちは所詮、オンナ。
戦士になったところで、力もなく、認められるってことが少ないの。
メグルは、ストローをコップの中でグルグル回し始める。
頑張るなんて、時間と体力の無駄じゃない?
だって、女の子なんて、頑張っても結局は何にもできないもん。それなら、頑張っている男の人を見守ったり、支えるほうが特だわ。
ガラス張りの窓の向こう側では、皺一つないスーツを身に付け、勇ましい顔をした女性が、何人も信号を待っている。
「乗り遅れるな。走れ」
そう心の中でつぶやいているかのように、信号が青色に変わるのを待ち構えている。
 
 頑張っても、頑張らなくても一緒。
メグルは、そう思えるほど、生活は恵まれていた。
適度に適当に働いても、稼げるお金は減らない。もしかして、自分のデザインしたものが世に広く売れるようなことがあれば、稼げるお金は増えるかもしれないけれど、収入が増えることなど、興味がない。今以上に貧乏にならなければ、それで良かった。

 カフェの支払を済ませて、まだ昼にならない外へ出てみた。
「みんな、忙しそう」
自然に笑みがこぼれる。
皆が大変なときに、自分は自由の身であるということが、何ともいえない快感となる。
少し離れたところにある銀行に向かった。ここは、メグルの会社の近くで、よく利用する場所だ。
自分の口座もここで作っている。入り口近くには、一人ぽつんと行員の女性が座っている。
デスクの上には、「お世話係」というカードが立てられていて、銀行内で迷っている人などを案内したり、機械の調子が悪く呼ばれたときなどに、仕事をするようだ。毎日違う人が座っているので、多分窓口の人たちで交代制なのだろう。

 「四本さん」
その日のお世話係の行員は、メグルの貯金口座を作ってくれた溝口という女性だった。
「珍しい時間ですね」 
「そうなんです、ふふっ」
メグルは、ATMの機械を待つ列に並んだ。
銀行のカードは一枚。それでもお財布が膨らんでいるのは、六枚もあるクレジットカードのせいだ。
銀行のカードを手に取って、ようやくあいた機械へと移動する。
給料日まであと十日ほど。普段のメグルなら、わざわざ銀行でお金をおろさなくてすむほど余裕で過ごせるところだが、実家にいない今は、多少多めに持っていたいものである。
「十万くらいおろしておくかぁ」
機械に向かって独り言をつぶやく。
カードが吸い込まれていく。
暗証番号を押して、あとは、引き出す金額を押すだけだ。
メグルは、次の画面が現れるのを待った。
「ピー、ピー」
どこかで、微かに音がする。
自分の周りで聞こえているような、遠いような。メグルは辺りを見回した。背後には、相変わらず順番待ちの客が列を長くしている。

 ピーピーという音は、どこか近くから聞こえてくるような気がして、メグルは機械を見つめる。そして、画面を見て、もともと大きい目をさらに大きく見開いた。
口座の中には、僅か三万円しかない。予定していた十万円はおろせそうにない。
「ま、いっか」
メグルは、引き出せるお金を全て引き出して、銀行を後にした。
携帯料金の引き落としがあるとか、カード会社からの請求があるということを、この時点では頭になかった。

まるもり 第3章極貧 第1話へ続く
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No  775

併走します

今年3月、久しぶりに出版社の賞に応募してみました。
結果発表は、10月だったかな。
小説を出版社に送り出したとたん、その物語は、まるで最初からなかったかのように、
自分の中から消えて行きます。
ブログは、常に更新していたいという気持ちがあり、時々は頭の中をひっかきまわして
ストーリーを製作することもありますが、出版賞に出すものは、無性に、
「これを書きたい熱」
が高まったときだけ書くことにしています。
そして、そのときがまたやってきました。
現在、こちらで掲載中の「まるもり」と併走して書いております。

併走と言えば…
今年の24時間TVの100kmマラソンランナーがエドはるみさんに決まりましたね。
最初は、「美人さんが無理してお笑いに走らなくてもいいのに〜」と、若干冷ややかに
見ていたのですが、金スマに出演されて、ここにたどり着くまでの、努力している姿を
見ているうちに、一気に好きになりました。
今年の100kmマラソンがエドさんになったと聞いたとき、正直わたし、併走したいと
思いました。
何かパワーをもらえそうな気がするんですよね。

もひとつ、併走…じゃなくて、迷走してるのが、地元のサッカーチーム。
ここ最近の微熱続きと、手のヒビ&腱鞘炎が完治していないのとで、相方さんが、
「心配だ」
と言ってくれたのをよそに、雨の中応援して来ました。
結果は…。
今期サイアクなもの。
頑張ってないんじゃないと思うんですよ。
素人だから、何も言うアレじゃないけど、見ていて、何かが足りないとしたら、それは

気迫

前に進む。
俺が決める。
俺が守る。

そういうのが、よく分からないのです。
例え負けるにしても、負け方があると思うんですよね。
1試合90分+ロスタイム。
この1試合に全力を込めてほしいものです。
頑張れ、ヴァンフォーレ甲府。

この話には、オチは設定されていません…。
思ったことを書いただけ^^;
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No  774

まるもり 第2章どん底-第11話-

まるもり 第2章どん底-第11話-

 柏木さんってば、何を言っているんだろう?
メグルは、アイスコーヒーにささったストローを、意味もなく回し続けた。
ストローに焦点が合うと、外はぼんやりとした景色になる。
目の前が、急にひまわり畑にでもなったかのように、黄色くなった。
焦点を外に向けると、目が眩むような明るい日差しの中に、ガラス越しにこちらを見ている黄色い服の女が視界に入った。
「東湖?」
胸のあたりで、手を小さく横に振っている。愛らしいその姿は、常に男の視線を釘付けにしている。

 金森東湖。
父は、世界を駆け回るピアニスト。母は、バイオリニスト。兄は、テノール歌手という音楽一家の中にあって、唯一音楽とは無縁の生活をしているのが、東湖だ。
メグルとは同じ会社の同じ部署に籍を置いている。
同期入社だというのに、東湖はすでに新鋭デザイナーとして国内では名を馳せていた。
肩まで伸びた髪は、昔で言うおかっぱ頭で、吸い込まれそうな、星のない夜空のように、黒い色をしている。
ボタンやジッパーがついている服を嫌い、東湖はいつも、まるで布をまとっているだけに見えた。それが、いま若者の指示を得ているのである。

 東湖は、頭に布切れを被り、上半身から膝にかけても、同じような布を体にまとっていた。平凡な人が身につけたのなら、きっと「変人」に間違われるに違いない。しかし、東湖はお洒落だった。素材がいい人は、きっと何を着ても美しく見えるのだ。
「メグル、さぼり?」
東湖は、カフェに入ってきて、先ほどまで柏木が座っていた位置に腰を下ろした。
「うん。へへ」
それだけしか言えなかった。
メグルは、まだ自分でも理解していなかった。自分が会社を辞めさせられたということ。信じたくもなかった。口に出してしまえば、それが現実のものとなってしまう。いや、実際にはもう現実なのだが。

「まったく」
東湖が深くため息をついて言う。
「メグルは、才能があるのに、やる気がないのよね」
彼女の言うことは、いつも的確である。事実、メグルは四本真樹夫の娘という事実を除いても、才能はあった。大学時代、友人の誕生日に贈ったウェディングドレス姿の女性の絵が、メディアに取り上げられたこともある。
真樹夫の娘ということで、たびたびマスコミに追われることもあり、そのたびに、友人たちはメグルの絵やデッサンをメディアに公表した。
そして、ときどきその絵は大学生には大きすぎるほどの金額になって、世の中に出て行った。

「メグルは、どうなりたいの?」
東湖は、近寄ってきた店員に、何もいらないという風に手を振って追いやる。
「どうなりたいって、うーん」
眉間に皺を寄せて、悩んだ結果出した答えは、
「楽しければそれでいい」
東湖は、少し呆れたような顔をしてメグルを見つめ、椅子から立ち上がる。
「もうちょっと真剣にしたらいいのに。わたしたち、もうただ楽しければいいっていう年齢じゃないよ」
東湖は、目を細めてメグルに一瞥をくれると、店の外へ向かって歩き始めた。
東湖の背中は、メグルには戦いに出て行く戦士のように見えた。
逞しく感じられた。

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No  773

まるもり 第2章どん底-第10話-

まるもり 第2章どん底-第10話-

 メグルは、素直に会社を後にした。
「社長ってば、どうしてあんなに機嫌が悪いんだろう」
会社が早く終わったときには、必ず同僚と立ち寄るカフェで、通り行く人たちを眺めながら、ため息をついた。
片側一車線の道路には、車が列を連ね、歩道は人で溢れている。
誰もが忙しそうだ。
時間はまだ朝の九時半。
携帯電話を取り出して、アドレス帳を確認していく。
せっかく休みになったのだから、遊ばなければ詰まらない。
メグルは、平日の昼間でも出てきてくれる誰かを探し始めていた。

 二回。
確かに、肩を叩かれた。
ふと目を開けると、そこはカフェ。
メグルの前では、相変わらず誰もが忙しそうに振舞っている。
携帯の液晶画面に目をやると、先ほど誰か遊べる人を探そうとしていたときから五分と経っていなかった。
寝ていたのか、それとも白昼夢を見ていたのか。
頭を振って、目を何度も瞬かせる。左右に振られた髪が、目の前においてあるアイスコーヒーにささったストローを弾く。
「おい」
呼びかけられて、メグルはようやく振り返った。
そこには、柏木が立っていた。

 柏木は、メグルのバッグを持ち上げ、空いた椅子に座った。
二人は、腕が触れ合う距離にいる。
前日に別れを言い渡されて、了解したばかり。
通常なら、「別れ」を言われたほうは、話もしたくないところだが、メグルは違っていた。
「あぁ、柏木さん」
両手で柏木の腕を軽くつかむ。
まるで、動物が前足を出して、じゃれて人の腕につかまっているかのようだ。
「構って欲しい」
メグルの愛くるしい大きな目は、そう物語っている。

 メグルにつかまれて、柏木は一瞬ビクッとした。
そして、彼女の顔を見て、苦笑いをする。
「そういう目をするな、ずるいぞ」
メグルの指を無理やり引き剥がし、二人の間に壁を作るかのように、テーブルに右肘をついた。
押さえた右頬が、次第に赤く染まっていく。
「とにかく」
カフェの店員が、柏木の存在に気付いて、足早に近づいてきた。
注文を取ろうとしているのだろう。
柏木は、立ち上がる。
「メグル、人間関係ちゃんとしないと、皆に見捨てられるぞ」
それだけ言うと、店員の脇をすり抜けて、カフェを出て行った。

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No  770

まるもり 第2章どん底-第9話-

まるもり 第2章どん底-第9話-

 そんなメグルの幻想を砕いたのは、一本の電話だった。
まだ始業時間前の会社からだ。
遅刻しそうなことが、誰かに分かってしまったのだろうか。
よく考えればありえないことなのに、妙に緊張して通話のボタンを押した。
「今日会社に着いたら、社長室へ直行して」
聞きなれた声だが、何を言っているのか正確に聞き取れない。
走っているメグルの耳には、時折吹く心地よい風が後方へ流れていく音のほうが大きく聞こえる。
そして、何度も繰り返し、
「えっ?聞こえないです」
と、繰り返す。

上司に向かって、一度も、
「申し訳ありませんが」
とか、
「すみませんが」
と、一言断って聞きなおしたりはしない。
それが四本メグル流。
上司は、そのことについて、いつも苛立っている。
それに気付くはずもなく、メグルは自分の調子でことを進めてしまう。
きっと誰かが注意していれば。
という考えは、もうこの時点では遅い。手遅れの状態になっていた。
誰かに諭されたり、駄目なものは駄目と言ってもらえたら、マシになっていただろうに。

「来月いっぱいで会社を辞めてもらいます」
会社に到着して、上司の言うように社長室へ向かったメグルは、何の余談もなしに言い渡された。
誰に言っているのだろう?
メグルは、部屋の中をぐるっと見渡して、最後に社長の顔を見つめた。
自分が可愛く見える位置は、首を十度くらい左に傾げたところ。
視線は少し俯き気味で、顎は引いて、口の端を軽く持ち上げる。
それは、その辺を歩いている男には効果があるとしても、会社の社長には何の効果も発しない。それを、メグルは分かっていなかった。
「今日から有給使っていいから。もう出てこなくていいよ」
社長は、机の上を何度も人差し指でコツコツと叩き、イライラを隠さなかった。
 
 それでもメグルは笑っていた。
社長の前で、ニッコリと微笑みを絶やさず、立ち尽くしていた。
そうしていれば、何か現状が変わるかもしれないと思っていた。
眉根を寄せて、メグルの顔を眺めている社長。
そして、数秒間の見つめ合いは、社長が先に視線を逸らして終わった。
「勝った」
メグルは、そう思った。
自分の思い通りにことは動く。目を逸らすということは、負けを認めたということ。
メグルは、嬉しそうに社長に笑顔を向ける。
「でー、てー、いー、けー」
ごく最近、どこかで聞いたようなフレーズ。
社長の怒って赤くなった顔。

 どうして?
メグルは、最近どこでその言葉を聞いたかということと、社長が怒る理由を必死に考えていた。

まるもり 第2章どん底 第10話へ続く
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No  769

まるもり 第2章どん底-第8話-

まるもり 第2章どん底-第8話-

 柏木が、何故突然別れを切り出したのか。そんなことは、メグルにはどうでもいいことだった。
ただ、遊ぶ仲間が一人減るだけ。その減った分は、もし寂しければ増やせばいいだけだ。悲しむこともない。
メグルは、携帯電話を放り投げて、再び天を仰いだ。
天井の染み。それより気になる、低い唸り声が聞こえ始めた。
「怖いなぁ」
そっと起き上がる。
目の前には、まだうつぶせに転がったままの真樹子が一人。
伸ばした右手は、助けを求めているように見える。
その手の指が、微かに動いている。
 「真樹子さん?」
メグルは、静かに這って真樹子に近づいた。
「生きてる?」
そう聞くことが、もう間違っている気がするが、メグルは、一定の距離を保って真樹子を見つめている。
唸り声は、地を這うように聞こえてくる。
それが、寝息と分かるまで、メグルは真樹子を遠巻きに見つめていた。

 だから。
というわけでは、決してない。
メグルは、翌日寝坊をして、会社に二十分ほど遅刻した。
時間には、それほどルーズではない。それどころか、例えば待ち合わせなど、時間の十分前には着いていないと気が済まないほうだ。
必死に会社へ向かっていた。
言い訳など考える暇もなく、どのルートを通ったら一番早く会社へ到着できるかを考えていた。
だいたい、前の晩に、真樹子の寝息にうなされ、朝起きたときには、自宅から追放されたことをすっかり忘れて、アパートの部屋にいちいち驚き、バッグから着替えを取り出し……それから、それから。
一人大慌てで、出てきたのだ。

 真樹子はまだ昨晩と同じ場所に突っ伏していたが、何か声をかける暇もなかった。
水道が出ないので、顔も洗えず、歯も磨けなかった。
駅まで走っていく間に、緑豊かな大きな公園があった。
汚くて、いつものメグルなら、近寄ることすらしなかった公衆トイレに駆け込む。
タイルに描かれた意味不明な落書き。誰かの携帯電話の番号。誰かに対するメッセージ。
「怖い」「汚い」と思う間もなく、メグルは自分の体を清めるかのように、手洗い場の水を出し続けた。
本当なら、頭も洗いたいところだが、やめておいた。
会社に行くまでに、乾くはずがないからだ。
それに、車通勤ならまだしも、電車で行かなければならない。
車中の好奇心の目が向けられるのは、我慢ができなかった。

 幾分さっぱりとしたときには、時計の針は思ったよりも進んでいた。
実は、真樹夫が探してきたアパートは、自宅の最寄り駅と三駅離れているだけのところだ。しかも、アパートからの最寄り駅は、自宅の最寄り駅より会社寄りの位置にある。
それでも、もう間に合わないのは目に見えていた。
「間に合わないくらいなら、さぼっちゃおっかなぁ」
果てしなく広がる青空を見上げると、自分がどこへでも行けそうな気になっていた。

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